本事業「未来を切り拓く情報科学人材育成コア」は以下の3つの柱からなり、大学院大学の特長を生かし情報科学人材育成のためのカリキュラムを実現させるため、以下の教育プロジェクトを実施することを事業全体の目的としている。
- 高度情報通信(ICT)技術者・研究者の礎を築く前期課程コアカリキュラムをさらに充実させる。
- 学生の自主性を尊重し社会をリードする人材を育成するための4つのアドバンストプロジェクトである、特待生制度、情報連携教育プロジェクト、海外派遣教育、地域社会貢献教育を発展させる。
- ICT技術を駆使した効果的な教育支援体制を整え、FD学外委員による提言等を通してすばやい教育評価と改善に取り組む。
このうち平成18年度は、交付申請書に記載した通り、アドバンストプロジェクトのうち、(a) 特待生制度を充実させるため、既に特待生として採用している9名に加え、4月から10名程度の特待生を採用し、研究プロジェクト・国際化活動を行うこと、(b) 情報教育連携プロジェクトとして、11の連携講座の研究教育活動を充実すること、(c) 学術交流協定校や著名国際会議への学生派遣を行うこと、(d) 地域社会貢献教育として、サイエンスパートナーシップの教材準備を行うこと等に重点を置いた。またしなやかな教育基盤の構築のため、昨年度外注により開発したシラバス作成支援システムの機能を拡張し、FD学外委員を含む国内外の有識者を招聘し、FDシンポジウムを開催した。それ以外の施策も含め、本事業の平成18年度の実績について、項目別に、達成状況、力点や当初計画からの更なる改善点、自己評価等を述べる。
教材同期型オンデマンド授業システム
【事業内容】
本システムでは、講義をビデオカメラにより録画し、教員から提出された教材と同期した形で授業コンテンツを作成する。学生は、本学の電子図書館システムを介して授業コンテンツにアクセスし、いつでも、どこからでも授業内容を視聴することが可能となる。授業コンテンツの作成、視聴にかかるシステムの作成については、平成17年度までの整備において一通りのものが構築されており、平成18年度は、これらシステム資産を本格的に運用する年度と位置づけた。授業コンテンツ作成については、8科目16単位分の授業において高品位カメラを用いたコンテンツ作成を行い、残りの授業については固定カメラによるコンテンツ作成を行った。また、昨年度から取り組んでいる授業コンテンツのpodcastingについては、図書館開発室の研究チームとも連携し、コンテンツ作成に関する技術課題を解決しつつある。一方、運用面では、オンデマンド授業システムを用いた授業履修、単位習得の環境を整え、学生が積極的にこれを利用できるよう、運用規則の整備を行った。教員のオフィスアワー活用、TAの積極的なサポート体制の確保により、従来以上に学生が受講しやすい環境を整えた結果、延べ5名の学生が第III期に開講されたビデオ講義により単位を修得した。さらに、録音品質の向上やカメラの高精細度化など、諸般の技術課題について電子図書館の技術部門とも協議し、将来の計算機システム導入において長期的な協力体制を取れるよう、学内の連携体制を整備した。
【成果】
学生による講義評価アンケート結果、受講生の人数、分野のバランスなどを考慮し、平成18年度は8つの専門科目について、高品位カメラを用いたビデオ撮影を行った。これにより、高品位カメラにより作成された授業コンテンツは累計で20科目分となり、これは本研究科で開講される基礎・専門科目の42%に相当する。授業コンテンツは学内URLで公開されており、いつでも視聴することが可能となっている。担当者が学生に聞き取り調査を行ったところ、授業内容の復習、(他の履修科目と同一日時に開講された等の理由により)参加できなかった授業内容の確認、昨年度までの授業内容をあらかじめ確認することで自分が履修する講義科目の参考にするなど、様々な目的に本システムを利用しているとのことであった。システムの利用形態とその有効性等についてはこれから詳細な評価を行う必要があるが、学生に多くの学習機会を与えるという当初の目標は、十分に達成されていると考えられる。また、一部の学生は、本システムを利用することによって、自分の研究成果を紹介するような「電子版研究紹介ポスター」などを自主的に作成している。これなどは、本システムの導入が刺激となり、学生自身の情報発信能力の強化という想定外の成果につながった興味深い一例であると考えられる。
特待生制度
【目標計画の達成状況】
特待生制度は、優秀な学生を獲得するとともに、彼らの自主性を発揮させて社会をリードする人材へと育成することを目的に、H17年度から開始した制度である。「魅力ある大学院教育」イニシアティブ(大学院GP)の採択をうけて平成17年度は9名の特待生を採用した。平成18年度には、特待生制度の充実に力を注ぎ、平成18年4月入学時より7名の特待生を受け入れ、さらに、5月に在学中の博士前期課程学生を対象に「魅力ある大学院教育」イニシアティブによる特別枠特待生6名を追加募集した。前年度より継続して特待生活動をしている7名を加えて、今年度は総計20名の特待生を採用した。
【趣旨と内容】
特待生制度は、国立大学法人・奈良先端科学技術大学院大学・情報科学研究科の博士前期課程学生を対象に、豊かな独創性と研究への熱意にあふれ、修了後は研究者や技術者として大いに社会をリードすると見込まれる学生を特待生として選抜するもので。制度の特徴は以下の通りである。
- 特待生の独創力を伸ばし、特待生同士のつながりも重視したプロジェクト研究を実施し、そのために必要な研究費と奨励金を支給する。
- 海外の大学が主催するセミナーや国際会議への参加など、特待生の国際化活動への経済的支援を行う。
- その他、新入生に対しては、学生宿舎への優先的入居を保証し、日本学生支援機構第一種奨学生へ推薦する。また、特待生であることを成績証明書に記載する。
【年間スケジュール概略】
[博士前期課程1年生:M1] |
4月 |
キックオフミーティング チュータ決定 |
5月−11月 |
「特別演習(6単位)」
所属研究室以外の2、3の研究室を回ってインターンシップ |
5月−年度末 |
海外研修国際化活動 (帰国後に報告書提出) |
8月−2月 |
特待生プロジェクトの計画と実施 毎月1回の経過報告会実施 |
1月−3月 |
特待生編集委員会を構成し、当該年度特待生プロジェクト活動報告書作成 |
3月―4月 |
特待生で編集委員会を構成し、当該年度プロジェク ト全体の報告書を作成する |
[博士前期課程2年生:M2] |
4月−年度末 |
先任特待生(M2やOB)による新特待生のサポート |
5月 |
特待生活動発表会 |
4月−年度末 |
特待生プロジェクトの継続、毎月1回の経過報告会、および、海外研修 (帰国後に報告書提出) |
年度末 |
当該年度特待生プロジェクト活動報告書作成 |
【実施状況】
平成18年度は、前述のごとく、全体で20名を特待生として採用した。内訳は、継続採用の博士前期課程2年生が7名、4月採用博士前期課程1年生が7名、6月採用は1年生4名、2年生2名である。それぞれプロジェクト研究と、海外研修国際化活動を実施し成果を上げた。
各特待生には所属研究室の助手クラスの教員がチュータとして指導にあたるとともに、教務部会に特待生タスクフォース(TF)を設け、研究科を挙げて活動をサポートする体制を組んだ。平成18年3月に博士前期課程を修了して後期課程に進学した特待生OBも協力して活動した。
平成18年5月8日(月)3限(13:30− 15:00)にはゼミナール講義の時間枠を使って、情報科学研究科平成17年度特待生の活動報告会および平成18年度特別枠特待生追加募集の説明会を開催した。
平成18年5月に特待生追加募集を研究科内へ公募したところ、前期課程2年生5名、同1年生16名、計21名の応募があり、研究科長、副研究科長、教務部会特待生TFを含む数人で、2度の面接を実施し、6名を特別枠特待生として追加採用した。
特待生プロジェクトの例としては、駅構内案内ロボットや情報科学研究科案内掲示板システムの研究開発など研究系のプロジェクト、オープンソース活動やビジネスプランコンペに応募して受賞するなどの個人的対外活動の他に、平成18年9月9日に学長や本学理事を審査委員として迎え全学的行事として実施したNAISTサイエンスオリンピック、留学生を組織して半期にわたって実施したLanguage Exchange Program [Simply Speaking -えいごしゃべろうかい-]、11月開催の神経経済学セミナー、12月開催の女性研究者のためのキャリアアップセミナー、1月フィリピン Ateneo de Manila University の学生4名を6週間の短期留学に招く交流企画、2月開催のNAISTアートフェスティバルなどがあげられる。さらに、平成19年1月18日開催の情報科学研究科FDシンポジウムにおいても、特待生による本研究科FD活動の評価や問題提起があった。
特待生各位のプロジェクトテーマと海外研修国際化活動の一覧を付表(H18年度 情報科学研究科特待生プロジェクト・海外研修先一覧)に示す。また、これらのプロジェクトに関する詳しい内容を記した活動報告書を作成した。
【実施の効果】
この特待生制度では、特待生がそれぞれの所属研究室で与えられた研究テーマとは独立して、自主的に研究プロジェクトを企画する。このための研究費を本補助金で支給することによって、これらの研究プロジェクトを実際に実施して成果を挙げることが可能になった。自分で発案した研究課題やイベントを企画し、それを実施して成果をあげることによって、特待生がそれぞれに達成感をもち、自らの能力と実行力に対する自信を得て、自主性をのばし、将来社会的にリーダシップを発揮するための良い経験を積むことができたと考える。すなわち、自立した研究者や技術開発に携わる人材を養成するという大学院教育の目的を実質化できた。
また、海外研修国際化活動の補助によって、研究者として巣立つ前の早い段階から、国際学会に出席して、あるいは海外の一流の研究室を自主的に訪問して、世界水準の学術的雰囲気に触れさせることができた。この経験は、各特待生に、英語コミュニケーションの重要性を気づかせるとともに、今後の研究意欲を大いに増進させる効果があり、国際学会での発表にも積極的に挑戦する機運を生んでいる。
【現状に対する自己評価】
この制度は情報科学研究科にとっても初めての試みであり、2年目の平成18年度も手探りでこの制度を運用してきた。今年度は昨年度と比べて採用人数が増えたことと、先輩後輩関係ができたことが良い影響を及ぼして、活動の様態がより広がったといえる。
特待生とチュータおよび教務部会特待生TFの全員が参加する毎月1回の特待生ミーティングで、各特待生の経過報告を受ける以外は、特待生をできるだけ1人前の研究者として遇し、彼らの自主性を尊重するように心がけた。結果として、これら20名の特待生は自らの研究プロジェクトと海外研修を達成し、それぞれに自信を持ち一回り大きく成長したように見える。この事業の実施は自主性を育てるための大学院教育改善の方向性を考える上で、具体例として十分な効果があったと考える。
【課題と反省点】
前年度の反省点、すなわち、特待生相互のグループ活動を引き出すこと、および、特待生を核として研究科の学生全体の自主性の向上と研究活動活性化への波及効果をあげることという2つの課題については、特待生の採用数増加と先輩後輩関係の導入によってかなりの改善が見られた。たとえば、数人の特待生が協力して開発する駅構内案内ロボットや情報科学研究科案内システム、あるいは留学生と英語コミュニケーションを求める一般学生を巻き込んだLanguage Exchange Program [Simply Speaking -えいごしゃべろうかい-]、さらに、研究科のみならず全学的な学生を巻き込んだサイエンスオリンピックや女性研究者交流企画などを具体例としてあげることができる。
逆に、特待生の採用人数が増え、一般の学生との明確な差別化がむつかしくなったとの指摘がある。一般学生にも、特待生と同様の自主性を伸ばすことのできる機会を組織的に与える方策は今後の課題である。
また、特待生奨励金の制度的な裏付けを明確にすること、特待生のプロジェクトテーマのうちイベントの企画に関するものを、特待生制度と切り離して、別途公募して支援する制度を作ること、あるいは、特待生の特別演習(インターン)にグループワークを導入してグループ活動啓発のきっかけにすること、などいくつかの提案も生まれている。
来年度は、財政的には大学・研究科の支援を得てこの制度を継続するとともに、上述の点も配慮して特待生制度をより深化させるべく努力する所存である。
情報連携教育プロジェクト
【事業内容】
平成18年度は10の教育連携講座が設置されており、博士前期課程学生で希望者をこれらの教育連携講座へ配属し、長期派遣(約1年)により修士論文の指導を派遣先で受けさせている。18年度の配属実績数は、博士前期課程2年次11名、1年次10名であり、目標を十分達成している。
また、大阪大学、京都大学ならびに本学の情報関連の3研究科とけいはんな学研都市のIT先端研究機関(NICT、ATR、NTT−CS研)の6研究機関が連携して、ユニバーサルコミュニケーション講座を開設した。この連携講座は、高度情報社会に必要な高度情報社会に必要な”ユニバーサルコミュニケーション”の最先端技術の教育・研究の場とし、各研究機関の特色を生かした統合的なシステム構築の出来る人材育成を目指す。具体的には、ナレッジクラスタ分野、ユニバーサルソサイエティ分野、高臨場感コミュニケーション分野、ユニバーサル対話エージェント分野の4つの最先端技術分野で平成19年度より学生配属を開始する。
【成果】
10名の博士前期課程2年次学生が、教育連携講座にて行った研究成果をまとめ修士論文を提出した。平成19年2月に修士論文審査会が行われ、全員優秀な成績で合格した。各人の研究テーマ(修士論文題目)は以下の通り。
- コミュニケーション学講座(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)
- ・木村 学:確率モデルに基づく文書ストリームからのホットトピック抽出
- 計算神経科学講座(国際電気通信基礎技術研究所)
- ・床反力情報とモーションキャプチャデータを使用した人間の動作認識・生成
- ・fMRI信号を用いた視覚像の再構築
- ・運動タスクを用いた階層ベイズ脳電流源推定法の比較検証
- ・脳磁図及び皮質脳波を用いた運動パターンのデコーディング
- 光センシング講座(オムロン)
- ・特徴点の三次元情報を利用した人検知のロバスト性向上
- 生体膜情報学講座(産業技術総合研究所)
- ・膜タンパク質の電子顕微鏡画像からの膜貫通ヘリックス同定方法に関する研究
- デジタルヒューマン学講座(産業技術総合研究所)
- ・二輪駆動ロボットのためのステアリングセットを用いた滑らかな経路生成の研究
- ・人間計測に基づく短期的および中期的な歩行者の経路予測に関する研究
- 放射線機器学講座(国立循環器病センター研究所)
- ・[18F]F-Dopaを用いたPETデータ解析の高精度化に関する研究
海外派遣教育
【事業内容】
学術交流協定校へ5名の長期派遣を行うことを目標としていたが、これを長期派遣と短期派遣に分類分けし、目的に応じた効果的な派遣支援を行った。長期派遣は以下の4名である。
- ヨエンス大学(1名)
- ルーバン・カトリック大学(1名)
- マックス・プランク研究所(1名)
- メリーランド大学(1名)
また新たにハワイ大学工学部と学術交流協定を締結した。本協定の締結を記念し、ハワイ大学において本学の研究活動等を紹介するワークショップを開催した。ワークショップは本学の学生および若手教員が主体となって企画したものであり、多くのハワイ大学教員・学生の参加があった。研究内容について深く議論するとともに、日米の大学の違いなど、より幅広い議論や情報交換を行うことができた。
学術交流協定校以外の海外の研究機関との間で教員や学生の派遣・受入れも活発に行っているが、本事業と直接関係しないのでここでは詳細は省略する。
さらに、今後の派遣学生のための事前教育も兼ねて、国際会議発表、英語による研究討論、論文執筆のための英語教育に力を入れた。これについては別に項目(以下の(8))を設けて後述する。
【成果】
平成18年度は、長期派遣と短期派遣に分類し、それぞれ、4名、28名の派遣実績を挙げた。また人数のみならず以下のような研究成果(長期派遣の4名分を記載)を得ることができ、学生の国際感覚を磨き、研究活動の更なる活性化に貢献した。
派遣先: |
ヨエンス大学(2006.7.3-2007.3.4) |
研究成果: |
滞在先のヨエンス大学に交換留学生として3ヶ月滞在した。派遣先研究室は色彩工学の分野の研究が盛んで、派遣学生は複数回に分けて計測された分光スペクトル画像のもモザイキングというテーマに取り組んだ。 |
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派遣先: |
ルーバン・カトリック大学(2006.9.4-2006.12.1) |
研究成果: |
大学内のTele Laboratoryにインターンシップ生として3ヶ月滞在した。ステレオ画像を圧縮して再構成するシステムの構築に取り組んだ。ステレオ画像をそのままネットワークで伝送するにはデータが大きすぎるため、片方の画像をもう片方の画像との差分を用いて伝送する手法を用い、立体映画に利用できるような画像の再構成に成功した。 |
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派遣先: |
マックス・プランク研究所(2006.10.4-2006.12.28) |
研究成果: |
同研究所のMolecular Plant Physiology研究部門に派遣され、バイオインフォマティクスのグループに所属して研究を行った。 |
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派遣先: |
メリーランド大学(2006.10.15-2006.11.26) |
研究成果: |
大学内のElectrical & Computer Engineering学科に派遣され、巨大連立方程式の新解法PSMをLSI設計用シミュレーションに応用する研究を行った。 |
本年度新たに学術交流協定を締結したハワイ大にて開催したワークショップでは、本学から派遣した3名の学生・若手教員が、それぞれの研究成果について発表を行った。本研究科を特徴付けるような話題を紹介したこともあり、多くの参加者の興味を惹いたようである。本ワークショップを契機とし、いままで直接の交流のなかった教員・学生同士での交流計画なども進んでいる。
地域社会貢献教育
【事業内容】
SPP(サイエンスパートナーシッププログラム)をはじめとする各種のイベントに、学生が積極的に関与できるよう活動した。普段は教えられる立場にあることの多い学生が、イベント参加者等を教え、指導することにより、自分が将来の技術社会・地域社会を指導していく立場にあるという自覚を育てることができる。また、関連学会の地域支部活動にも学生が積極的に参加するよう働きかけ、横断的な人脈形成を支援したり、幅広い視野を養うことができるよう教育的な指導を行った。
【成果】
SPPでは、情報通信技術を教育現場でいかに活用していくか、という問題設定で教員研修講座を実施した。昨年度に導入したイベント支援用パソコンも十分に活用し、情報科学の教育・研究に携わる立場からの問題提起、技術提案を行うことができた。TA等の立場で参加した学生も研修参加教員(小中学校の教員が大多数)と積極的に交流し、自分の持つ知識や技術が役に立つことを確認したようである。また、昨年度事業の一環としてセミナー室へ情報機器を導入したが、その利用を学生にも積極的にすすめた結果、特待生を中心とした英語学習サークルの発足など、自主学習・地域活動をより推進することができた。一方、学会活動への関与では、電子情報通信学会やIEEEの関西支部などに積極的に学生委員を推薦し、各支部活動の活性化と、関与する学生の横断的な人脈形成を支援した。
効果的なFD
【事業内容】
本研究科ではFDとして (1)学生に対しアンケートをとる授業評価 (2)FD学外委員の授業参観等を通じたカリキュラム改善提案
(3)研究科教員のための上記の発表報告およびディスカッションによるFD研修会を行っている。平成17年度より本事業によりFD学外委員を一名雇用し、従来からのFD学外委員とあわせ二名からの改善提案を受け、学生からの授業評価アンケートと併せて様々な角度から授業の評価・改善提案がされるようになった。また、本年度は国外からの有識者およびFD学外委員二名にFD研修会に参加いただき、これらの報告およびディスカッションを行い研究科のFD効果の向上を行った。
【成果】
本研究科ではFDの取り組みとして、(1)学生に対しアンケートをとる授業評価 (2)FD学外委員の授業参観等を通じたカリキュラム改善提案 (3)研究科教員のための上記の発表報告およびディスカッションによるFD研修会を行っている。本事業により平成17年度からFD学外委員を二名にし、様々な角度からの改善提案を受け、実績概要で述べた通り(1)?(3)全体によりFD効果の向上につながった。(1)〜(3)について具体的に述べる。
学生に対しアンケートをとる授業評価
各授業の最終日に学生に対してアンケートをとり授業評価を行っている。アンケート項目は平成16年度から変更せず、a)テキストb)授業の難易度c)プレゼンテーションd)教員熱意e)シラバスとの内容の違いf)試験g)授業構成h)知識獲得i)後輩への推薦である。これらの平成16、17、18年度の全科目平均の結果を示す。また、学生の授業評価の結果を受けて、教員がどのように改善しているのかを把握するために授業終了後に教員へのアンケートも実施した。教員へのアンケートの結果、学生に対してより良い教育を行うために、各教員が授業を行うにあたり様々な取り組みを始めていることが分かった。
FD学外委員の授業参観等を通じたカリキュラム改善提案
FD学外委員は大阪大学名誉教授谷口健一先生と、本事業による同志社大学教授、京都大学名誉教授片山徹先生の2名体制でのカリキュラム改善提案を受けた。FD学外委員には実際に授業参観をしていただき、具体的に本研究科教員にとってどのような点が授業に足りないかを提案してもらうことができた。これらは各FD学外委員によりまとめられ、(iii)FD研修会において発表報告してもらうことにより本研究科教員へ周知された。また、谷口先生には教員個別に授業参観による具体的な改善点に関してご指導いただいた。
研究科教員のための上記の発表報告およびディスカッションによるFD研修会
平成18年1月18日にFD研修会を開催し、上記の発表報告およびディスカッションを行った。以下にFD研修会のプログラムを示す。FD研修会には研究科全教員のうち70%以上の63名が参加した。本年度のFD研修会では(i)と(ii)の発表報告だけでなく、Wisconsin大学の鈴木一郎教授によるアメリカでの大学院教育についてや大学院教育の問題点について調査検討していただいた内容の講演や、本研究科教員が北カロライナ大学シャーロット校で受けてきた教育研修についての報告も行い、FDが活発な他大学での具体的な手法について学ぶことができた。さらに(2)特待生制度の学生による授業に対する学生の視点からの提言も行った。本研修会を通じて本研究科各教員に対するFDおよび本研究科の教育システムそのものに対するFDの具体的な案およびヒントが様々挙げられ、今後のFDの効果向上につなげることができた。
プログラム
- 千原研究科長挨拶
- 学外FD委員提言
片山徹先生 (同志社大学教授、京都大学名誉教授) (20分)
谷口健一先生 (大阪大学名誉教授) (20分)
- 招待講演
「Faculty Development in the U.S.」
鈴木一郎先生 (Wisconsin大学教授) (45分)
- 海外FD研修報告
中島康彦 教授 (15分)
平田健太郎 助教授 (15分)
- 学生からの提言
中村幸紀(情報科学研究科D1) 他 (30分)
- 本研究科のFDの取組み (10分)
- ディスカッション (40分)
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H16年度 |
H17年度 |
H18年度 |
テキスト |
3.90 |
4.11 |
4.03 |
授業難易度(5:難?1:易) |
3.65 |
3.66 |
3.70 |
プレゼンテーション |
3.65 |
3.78 |
3.73 |
教員熱意 |
4.02 |
4.16 |
4.21 |
内容予想 |
4.09 |
4.20 |
4.11 |
試験の適切さ |
3.92 |
3.94 |
3.89 |
授業構成 |
3.91 |
4.03 |
4.04 |
知識獲得 |
4.04 |
4.11 |
4.13 |
後輩への推薦 |
3.79 |
3.90 |
3.87 |
カリキュラム編成・授業支援システムの開発
【事業内容】
平成18年度から運用を開始した電子シラバスシステムについて、以下の機能拡張を行い、また19年度のシラバス作成を行った。
平成18年 |
4-9月 |
シラバスシステムの機能拡張の検討を行い、業者への発注を行った。具体的な拡張内容は以下の通りである。 |
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・現在手作業で作成している授業日程表を、科目ごとに担当教員が指定する開講情報から自動生成できるようにする。 |
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・現在各教員が授業のホームページを独自に作成しているケースが多く、学生に取っては情報が分散していて利便性が低い。そこで、各科目の電子シラバスに、教材のアップロード機能と、教員作成のシラバスページ等へのリンク機能を加える。 |
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・各科目ごとにRSS機能を付加する。 |
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10月 |
セキュリティ保全を目的とし、現在学外サーバに置かれているシラバスシステムを学内サーバに移行する作業を開始した。同時に、上記の拡張機能のテスト運用を開始した。 |
平成19年 |
3月 |
授業担当全教員に対して、平成18年度シラバス原稿を電子入稿するよう依頼した。 |
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4月 |
平成19年度電子シラバスシステムの稼動を開始した。 |
以上の通り、シラバスシステムに関しては平成18年度の目標を十分達成した。昨年度の課題として、紙媒体のシラバスブック(学生ハンドブック)の作成配布方法について再検討することがあった。検討の結果、各科目のシラバス部分は紙媒体には含めないことにした。
【成果】
紙媒体と電子媒体で二重に管理していたシラバス情報を電子シラバスに一本化することにより、学生の利便性を損なわずに管理の効率を上げることができた。さらに従来は今年度の授業が終了しないうちから次年度のシラバスを確定させなければならないという問題点があったが、今回の改善により、シラバスの基本的な内容は新学期直前までにシラバスシステムに入稿すればよく、また、軽微な量の改善は授業開始の数週間前までに電子シラバスに反映できるようになり、常に最新の情報を学生に提示することが可能となった。
英語教育
【事業内容】 昨年度と同様、英語教育の専門家であるDee A。 Worman言語学博士を米国Harvard大学から招聘し、Workshop on Writing Effectively in Science and Technology in English (Parts II and III)と題したワークショップを10月に2日間に渡って開催した。当日は50名以上の出席者があり、Worman博士の講演と活発な討論が行われた。さらに同博士は滞在中、希望者に対し、英語による論文や国際会議発表についての個別指導も行った。
また昨年度の検討課題として、長期間英語教育専門家を雇用し、常時マンツーマンで英語論文作成や国際会議発表の指導を学生が受けることのできる体制を作ることが挙げられていた。そこで、平成18年6月から平成19年3月末までの10カ月間、英文デスクサービスを展開した。英文添削を専門に扱う企業と契約し、特に情報科学分野に精通したスタッフ1名を週2日間研究科内に常駐させ、学生との直接面談に基づく論文やスピーチ原稿の英文添削、および、プレゼンテーショントレーニングなどの成果発表支援業務を行った。
【成果】 従来の郵送による英文添削では、研究内容を直接伝える面談の機会がないことから、高品質の論文に仕上げるために多くの時間を要したのに対し、予約なしに直接原稿を持ち込め、また、添削途中や添削終了時に直接面談を行う形態とすることにより、時間的にも質的にも極めて良好な支援業務とすることができた。さらに、添削ページ数に依存しない定額契約とすることにより、個々の添削依頼に関して費用負担などの付随的事務処理が全く発生しないことも極めて効果的であった。
合計80日間(450時間)の常駐契約に対して、添削を行った時間は300時間に達し、面談時間を加えるとほぼ休み無しの実施状況であった。10カ月間に添削を行った論文は合計127本、総計1500ページに達した。
2007年度からは、本デスクサービス実施の経験を生かしつつ、学生が卒業した後にも効果が持続するような、より教育的なサービスとしての再構築を目指し、英語教育の経験豊かな特任教授を採用し配置している。
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