平成20年度の特待生制度事業概要




特待生制度は,優秀な学生を獲得するとともに,彼らの自主性を発揮させて社会をリードする人材へと育成することを目的に,平成17年度から開始した制度である. 平成17年4月当初,3人の特待生を採用した.その後,「魅力ある大学院教育」イニシアティブ(大学院GP)の採択をうけてこの制度を展開・充実し,平成17年11月より9名に増員して実施した.平成18年度は4月入学時より7名の特待生を受け入れ,さらに,5月に在学中の博士前期課程学生を対象に「魅力ある大学院教育」イニシアティブによる特別枠特待生6名を追加募集し,前年度より継続して活動をしていた7名を加え,総計20名の特待生を採用した.平成19年度は,前期課程2年生の特待生が6名,前期課程1年生の特待生が4名の計10名を採用,そして,今年度(平成20年度)は,前年度から継続している前期課程2年生の特待生が4名,4月より新たに採用した前期課程1年生の特待生が4名,計8名が活動している. 平成19年秋には,情報科学研究科が文部科学省「大学院教育改革支援プログラム」:「創造力と国際競争力を育む情報科学教育コア」プログラムに新たに採択されたので,平成21年度までの3年間はこのプログラムの支援の下,そのアドバンストプロジェクトの一環として特待生制度を実施している.



1.特待生制度の趣旨と内容


国立大学法人・奈良先端科学技術大学院大学・情報科学研究科は,博士前期課程学生を対象に,豊かな独創性と研究への熱意にあふれ,修了後は研究者や技術者として大いに社会をリードすると見込まれる学生を特待生として選抜する.優秀な学生に単に経済的支援を与えるだけでなく,特待生自らが企画した研究プロジェクトや海外研修を支援することが特長である.制度の詳細は以下に示すが,具体的には授業料相当額の研究奨励金を支給するほかに,海外研修などの国際化活動と研究プロジェクトに対して一人あたり年間約80万円を支出している.また,それぞれの特待生には助教クラスの教員がチュータとしてサポートにあたる.

 
  • 特待生の独創力を伸ばし,特待生同士のつながりも重視したプロジェクト研究を実施し,そのために必要な研究費と奨励金を支給する
  • 海外の大学が主催するセミナーや国際会議への参加など,特待生の国際化活動への経済的支援を行う.
  • その他,新入生に対しては,学生宿舎への優先的入居を保証し,日本学生支援機構第一種奨学生へ推薦する.また,特待生であることを成績証明書に記載する.


2.特待生制度年間スケジュール概略


[博士前期課程1年生:M1]
  • 4月 キックオフミーティング チュータ決定
  • 5月−11月 「特別演習(6単位)」
           所属研究室以外の複数の研究室を巡るインターンシップ
  • 5月−年度末 海外研修国際化活動 帰国後に報告書提出
  • 8月−2月 特待生プロジェクトの計画と実施 毎月1回程度の経過報告会実施
  • 年度末 特待生編集委員会を構成し,当該年度特待生プロジェクト活動報告書作成


[博士前期課程2年生:M2]
  • 4月−年度末 先任特待生(M2やOB)新特待生のサポート
  • 5月 特待生活動発表会
  • 4月−年度末 特待生プロジェクトの継続(任意)、および、海外研修 帰国後に報告書提出
  • 年度末 当該年度特待生プロジェクト活動報告書作成


3.特待生制度実施状況


平成20年度は,前述のごとく前年度から継続の博士前期課程2年生4名に加えて,平成20年4月に博士前期課程1年生4名を追加し,全体で8名を特待生として採用した.それぞれプロジェクト研究と,海外研修国際化活動を実施し成果を上げた. 各特待生には所属研究室の助教クラスの教員がチュータとして指導にあたるとともに,教務部会に特待生タスクフォース(TF)を設け,特待生活動をサポートする体制を組んでいる.平成19年以前に博士前期課程を修了して後期課程に進学した特待生OBも協力している. 今年度の特待生プロジェクトとしては,昨年度から継続している,「Juliusを用いた携帯用端末の試作」,「GUIを使用した教育用ハードウエアシミュレータソフトの開発」,「musical informatics」 ,「NAM(Non-Audible Murmur)を用いたロボット操作」,および,今年度から博士前期課程1年生の4人が共同して取り組んでいる,「NAISTサイエンスライタープロジェクト」などがある.これらのプロジェクトの詳しい内容は,別添資料「2008年度特待生活動報告書」に記載されている.なお,この報告書自体も,特待生自ら編集委員会を組織して作成したものである.




4.特待生制度実施の効果


この特待生制度では特待生がそれぞれに所属研究室の研究テーマとは独立して,自主的に研究プロジェクトを企画するが,このために必要な研究費を本補助金で支給することによって,これらのプロジェクトを実際に実施して成果を挙げることが可能になった.自らの手でプロジェクトの企画から実施までを手がけることによって,特待生がそれぞれに達成感をもち,自らの能力と実行力に対する自信を得て,自主性をのばし,将来社会的にリーダシップを発揮するための良い経験を積むことができたと考える. また,海外研修国際化活動に対する補助によって,研究者や技術者として巣立つ前の早い段階から,国際学会に出席して,あるいは海外の一流の研究室を自主的に訪問して,世界水準の学術的雰囲気に触れさせることができた.この経験は,活動報告にも述べられているように,各特待生に英語などによる研究者相互のグローバルなコミュニケーションの重要性を気づかせるとともに,今後の研究意欲を大いに増進させる効果があり,国際学会での発表にも積極的に挑戦する機運を生んでいる. さらに,前述の短期インターンシップ招聘プログラムによって,昨年度来日した6名の内3名の学生が,来年度から本学に留学生として入学することも国際化の観点からうれしい効果である.




5.現状に対する自己評価

この制度をはじめて4年目になる.最初の3年間で得られた経験に基づいて,昨年度から,特待生制度のプロジェクト研究部分を独立させて,一般学生も応募可能なテーマ提案型研究プロジェクト(通称CICP)を実施している(詳細は別項参照).特待生へは,このCICPとは独立に従来通りの特待生プロジェクト支援を実施しているが,特待生によっては,自身の特待生プロジェクトとCICPプロジェクトの両方を手がけるケースも見受けられ,全体としてみると,特待生プロジェクトの注目度は相対的に低下した.さらに,一般学生を対象に,長期および短期の海外派遣制度も取り入れているので,この点でも特待生制度の特長が減少している印象は否めない.しかしこれはこれで,特待生の成長に効果のあった制度を研究科全体に展開できたことを意味している. 特待生の指導方法については,従来と同様,チュータおよび教務部会特待生TFが参加する毎月1度の特待生ミーティングで,各特待生の経過報告を受ける以外は,特待生をできるだけ一人前の研究者として遇し,彼らの自主性を尊重するように心がけた.今年度の特待生プロジェクトは,博士前期課程1年生の4人が共同して一つのプロジェクトに取り組み,かつ,その進捗が年度末時点でまだ十分な発信をするところまで達しなかったことも影響して,一般公募型のCICPに比して目立たないという指摘があった.しかしそれぞれの特待生を個別にみれば,自らの研究プロジェクトと海外研修国際化活動を達成し,活動報告書を上梓し,それなりに成長している.したがって,この事業の実施は自主性を育てるための大学院教育改革の具体例として十分な効果があったと考える.



6.課題と反省点


一昨年度からの反省点,すなわち,特待生の採用人数が増え,一般の学生との明確な差別化がむつかしい特待生も含まれてきたとの指摘については,全体で約300名の博士前期課程在学生中,昨年度は10名,今年度はわずか8名の採用という狭き門になり,ある意味では解消した.しかし,今年度の特待生には比較的おとなしくスマートなキャラクターの学生が多かったこともあり,採用数の減少とあいまって,従来よりも特待生の存在感が低下した印象がある. 特待生奨励金の支給方法については,今年度からRAとして正式に採用することによって制度的にも確立することができた. 従来の特待生プロジェクトと海外研修にあたるものを,特待生制度と切り離して,別途一般学生に公募して支援するCICP制度と海外派遣制度を創設したことにより,研究科学生全体の自主的かつ創造的な活動が盛んになった.しかしこの副作用として,特待生制度のメリットが相対的に低下した部分もあり,選ばれた者としての善い意味でのエリートの自覚を持ちリーダシップを発揮できるようにするために別の工夫が必要になったと考える. 来年度はこれらの点も配慮して特待生制度をより深化させるべく努力する所存である.たとえば,特待生プロジェクトをCICPに統合して,一般公募プロジェクトと特待生プロジェクトの成果を同じ土俵で競わせる案,あるいは,4年前に採用された特待生の一部が,今年度末に博士後期課程を修了することもあり,従来からの懸案でもある情報科学研究科同窓会組織の長期的な核となる特待生の繋がり,すなわち,現役特待生と特待生OBの交流会,ホームカミングデー,あるいはシンポジウムなどを企画する案など,特待生制度をもう一度初心にかえって見直すべき時機に来たと考える.


特待生プロジェクト一覧表(2008年度)
2008年度特待生活動報告書(PDF)
表紙/裏表紙(PDF) (640KB)
本文(PDF) (32MB)