自然言語処理学研究室の坂井優介助教、芳賀あかりさん(D1)、中谷響さん(M2)、蒔苗 茉那さん(D1)、鈴木 刀磨さん(M2)、吉田大城さん(M1)らが、言語処理学会第31回年次大会においてそれぞれ表彰されました。(2025/3/13)
言語処理学会年次大会は、日本の言語処理研究の成果発表の場として年1回開催されている大会です。第31回年次大会(NLP2025)は、2025年3月10~14日の日程で出島メッセ長崎にてハイプリッド開催されました。 若手奨励賞:年次大会の開催年の4月1日において満30歳未満のもの」を対象とし、主に当該研究論文と第1著者の将来性を評価し、第1著者(人)に対して贈られる賞です。本年度は対象487件中20件に授与されました。 委員特別賞:発表論文の4%程度に対し、「新規性」や「有用性」、「将来性」に関連する観点で光るものを大会委員で選出し、大会委員長名義で表彰するものです。本年度は対象726件中32件に授与されました。 みらい翻訳賞:大会の発表論文に対して、スポンサーが独自に授与する賞で、本大会では本賞を含み、11のスポンサー賞が授与されました。 *学年・所属は受賞当時 |
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若手奨励賞 1:
- 受賞者 Awardee:
坂井 優介 - 受賞研究テーマ Research theme:
"IMPARA-GED:言語モデルの文法誤り検出能力に着目した文法誤り訂正の参照文なし自動評価"
本稿では、参照文なし文法誤り訂正自動評価手法であるIMPARA-GEDを提案する。我々は文法誤り訂正の自動評価手法であるIMPARAに使用される品質推定モデルに着目し、文法誤り検出能力を強化した事前学習済み言語モデルを用いて、IMPARA-GEDの品質推定モデルを構築した。文法誤り訂正自動評価手法のメタ評価用データセットであるSEEDAを用いた性能評価実験の結果、IMPARA-GEDは特に文単位の人手評価結果と最も高い相関を示す自動評価手法であることが示された。
- 著者 Authors:
坂井 優介、五藤 巧(博士後期課程2年)、渡辺 太郎 - 受賞者のコメント Awardee's voice
このたび、言語処理学会年次大会にて、若手奨励賞を受賞することができました。本研究は新しい分野に挑戦した取り組みであり、その中で成果を出せたこと、大変嬉しく思っています。 今後も引き続き、面白い研究を重ね、発表を目指し精進致します。関係者の皆様はじめ、応援の程宜しくお願いいたします。
若手奨励賞 2:
- 受賞者 Awardees:
芳賀あかり(博士後期課程1年) - 受賞研究テーマ Research theme:
"言語モデルの事前学習におけるバリエーションセットの効果"
子ども向けの発話に含まれ、子供の言語習得を促進させることが知られている「バリエーションセット」という発話集合が、言語モデルの学習にも効果を示すのかを分析しました。その結果、バリエーションセットが言語モデルの文法と意味理解の学習に貢献する可能性を示しました。
- 著者 Authors:
芳賀 あかり(博士後期課程1年)、深津 聡世(東大)、大羽 未悠(博士後期課程1年)、Arianna Bisazza(フローニンゲン大)、大関 洋平(東大) - 受賞者のコメント Awardee's voice
今回このような名誉ある賞を頂き、たいへん嬉しく思っております。共著者の皆様からの多大なるご助言やご協力、また共同研究の機会をくださった先生方のご支援に、心より感謝申し上げます。この受賞を励みに、今後も研究活動に一層精進してまいります。
若手奨励賞 3:
- 受賞者/著者 Awardee/Author:
中谷響(博士前期課程2年) - 受賞研究テーマ Research theme:
"Wikidataに基づく大規模ジオコーディングデータセット"
本研究では、場所を表す言語表現を地理データベースの適切なエントリと紐付け、地理座標を出力するモデルのための大規模データセットを構築しました。具体的には、Wikipediaの各記事に出現する場所を表す言語表現と紐づけられているWikidataのエントリを収集することによって自動構築しました。また、本データセットを利用した実験では、異なるドメインに対しても高精度で解析可能であることが示されました。
- 受賞者のコメント Awardee's voice
修士課程2年間の研究の集大成として取り組んだ本研究を評価いただけたことを、大変光栄に思います。また、ご指導いただいた先生方、日頃よりご支援くださった皆様に心より感謝申し上げます。
委員特別賞 1:
- 受賞者/著者 Awardees/Authors:
鈴木 刀磨(博士前期課程2年)、片山 歩希(博士前期課程2年)、郷原 聖士(博士前期課程2年)、辻本 陵(博士前期課程2年)、中谷 響(博士前期課程2年)、林 和樹(博士前期課程2年)、坂井 優介、上垣外 英剛、渡辺 太郎 -
受賞研究テーマ Research theme:
"大規模言語モデルの分布予測における常識に基づいた割合予測能力の評価"
近年、大規模言語モデル(LLM)を用いた回答分布予測が注目されているが、割合に関する数値的予測に合理性があるかは明らかではない。本研究では、実際のアンケートデータの分布割合を入れ替えた「常識的には不自然な擬似分布」を用いて、LLMがその説明を受けても合理的な分布推定を行えるかを検証した。その結果、説明に単に追従する能力と、常識に基づいて割合を予測する能力が異なることが明らかとなった。また、分布の性質を十分に理解していない予測における不合理性も確認された。この結果は、LLMの分布予測能力を評価する際に、常識的な推論能力だけでなく、与えられた指示への追従性能も考慮すべきであることを示唆している。
- 受賞者のコメント Awardee's voice
修士課程の学生が連名となる本研究において、このような賞をいただくことができ、大変光栄です。 本研究会の運営に携わった皆様、貴重なご意見をくださった方々、そしてご指導くださった教員の皆様に心より感謝申し上げます。
委員特別賞 2:
- 受賞者/著者 Awardees/Authors:
大南英理(博士前期課程2年)、宮西大樹(東大)、前田航希(東京科学大)、栗田修平(国立情報学研究所) -
受賞研究テーマ Research theme:
"多言語での判例概要からの法的関係性可視化"
大学の法学部講義、法律の基本書、試験参考書等では複雑な法律関係を視覚的に把握する目的で法律関係を図示することが一般的に行われ、選挙や憲法問題等ではテレビ放送等でも法律関係の概略を図示することがあります。 他方で、法律分野へのLLMの応用では、①法律分野の特殊な推論方法(法的三段論法)をLLMが理解していないため一般的なタスクと比較してLLMの性能が低い点、②信頼できるAIの観点から、特に判決の作成作業等をLLMで代替する場合、推論過程でなぜその判断がなされたかが示されない(ブラックボックス化してしまう)点が問題となっていました。 本研究では、EU法判例の事実の概要から、判例で実際に裁判所が行った法律解釈と同じ内容で法律関係を図示することにより、①法律分野の特殊な推論方法(法的三段論法)の結果を可視化することでLLM が法律の解釈・適用の推論性能を向上させ、同時に②判決の判断過程を明確化することを目的としています。
- 受賞者のコメント Awardee's voice
言語処理学会の投稿数が過去最大となった中で、このような賞をいただくことができ大変光栄です。共著者の皆様、NAISTでご指導いただいたすべての先生方に感謝いたします。
委員特別賞 3:
- 受賞者/著者 Awardees/Authors:
吉田大城(博士前期課程1年)、林 和樹(博士前期課程2年)、坂井 優介、 上垣外 英剛、林 克彦(東京大学)、渡辺 太郎 -
受賞研究テーマ Research theme:
"大規模視覚言語モデルにおける言語タスクに対する視覚情報の影響"
大規模視覚言語モデル(LVLM) は言語情報に加 えて視覚情報も扱うことができる言語モデルである。一般的に LVLM は、視覚と言語の両方を同時に扱うようなタスクで用いられることが前提とされているが、言語情報のみで解決可能なタスク(言語タスク)に限定して使用することも可能である。ただし、LVLM の構築過程では画像情報と整合が取られ ているため、視覚情報が追加的に与えられる状況において、その画像がタスクに密接に関連する場合だ けでなく、逆に敵対的であったり無関係であったりする場合に応答がどのように変化するのかは明らかではない。本研究では、心理学的効果検証の一種であるプライミングを参考に、LVLM を用いて言語タスクを解く際に、視覚情報を追加的に挿入することで言語タスクへの影響を調査する。実験の結果、言語タスクにおいて視覚情報を追加することで、精度と確信度の両方に変化が観測され、LVLM でもプラ イミング効果を確認でき、LVLM が言語タスクを扱う際でも視覚情報の影響を受けることが明らかとなった。
- 受賞者のコメント Awardee's voice
このたびは委員特別賞という栄誉ある賞を頂き、大変光栄に思います。ご指導いただいた先生方と、共に研究に取り組んだ皆様に心より感謝申し上げます。
みらい翻訳賞(スポンサー賞):
- 受賞者/著者 Awardees/Authors:
蒔苗 茉那(博士後期課程1年)、坂井 優介、上垣外 英剛、渡辺 太郎 - 受賞研究テーマ Research theme:
"訳出の同時性に特化した評価データを用いた同時音声翻訳モデルの評価と分析 "
同時音声翻訳は、原言語文のセグメント化や目的言語文を原言語文の語順に近づけることで、低遅延と高品質の両立を目指してきた。しかし、既存の評価データは語順の並び替えを多く含むため、低遅延の同時音声翻訳評価に適していない。本研究では、目的言語文が原言語文の単語・句の並びになるべく沿うような語順の単調性に焦点を当てた新しい評価データを提案する。実験の結果から、提案評価データsimul-tst-COMMON は、既存の評価データよりも適切にモデルの性能評価ができることを示した。 - 受賞者のコメント Awardee's voice
このような賞をいただくことができて光栄です。特に、同じく機械翻訳に従事されている方から本賞を受賞できたことを、大変嬉しく思います。今後もよい研究を重ねていけるよう精進します。また、本研究会の運営に携わった方々、そして本研究に対して多くのコメントをくださった方々に感謝申し上げます。
- 外部リンク Links to:
言語処理学会第31回年次大会 HP: https://www.anlp.jp/nlp2025/award.html
言語処理学会 HP: https://www.anlp.jp/award/ronbun.html