INTERVIEW

創発的先端人材育成フェローシップ採択者

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ファーマコビジランス ソーシャルメディア データマイニング 自然言語処理

医薬品の不適切使用の減少を目指し、SNSをファーマコビジランスに応用する

私は薬学部の出身で、医薬品は人の健康を守り、生活を良い方向に変えてくれるものと信じています。しかしSNSでは「医薬品が適切に使われていない」と感じる発言が多く見受けられます。そのような不適切使用があることを医療機関側が把握できるのは、用量・用法を大きく超えて服用し、身体に深刻な異常が生じた患者が医療機関にかかったときです。

どのような医薬品が、どのように乱用されているのか。それを把握する手段の一つとしてSNSのテキストデータを有効活用できると考え、この研究を始めました。

薬に興味を持ったのは、アトピーを患ったときにステロイド剤がとても効いたから。適切に使用したため副作用もなく、薬の効果に感銘を受けた

医薬品乱用に警鐘を鳴らす、インパクトある情報源となることを期待

本システムは、まずSNS上の大量のテキストデータから、機械学習を用いて医薬品に関わるものを抽出します。正確な名称でなくとも「寝る前に○○を2錠飲んだ」等、文脈から医薬品に関する発言であると推測できます。

次に、医薬品の使用として適切なものと、不適切使用や乱用にあたるもの(ダイエット、過剰服用、服薬間違い、自殺目的等)の教師データを作成し、学習モデルを構築しました。このモデルを使って医薬品に関わるテキストデータを分類させることで、どのような医薬品で、どのような不適切事例が、どれくらい存在するのかを集計します。

研究の概要。テキストデータから必要な情報が一目でわかるように可視化する手法の検討

SNSで登場頻度が少ない医薬品は、十分な学習データが作れないため抽出や解析が困難であり、現時点ではうまく分類できていません。これを解決するために、学習モデルに医薬品関連の知識を覚えさせる方法を検討しているところです。

SNSから取得した医薬品の不適切使用の実態データは、医療現場や製薬会社からの注意喚起に役立つことはもちろん、公的機関に提供することで、医薬品の販売や使用に関するより良い規制に繋がると期待しています。

一般人にも医薬品の不適切使用の実態を伝えたいが、伝え方は慎重に考え、工夫する必要がある

研究者として進むべき方向が認められ、自信が持てるようになった

思うように結果や成果を出せず、自分が進んでいる方向に不安を抱いたことはあります。申請期間が学会の出張等と重なって「無理かもしれない」、「やめようか」と考えたこともありました。ですが、まずは申請しなければ何も始まらないと奮起し、出張先のホテルで申請書を書き上げて提出しました。

このフェローシップに選んでいただき、自分はこのまま研究を続けていいのだと自信が持てるようになりました。諦めずに挑戦して良かったと、心から思っています。

学会や国際会議のみではなく、社会や人々にプラスの影響をもたらすことで研究の価値を認識してもらえるよう、これからも励んでいきます。

研究者として「社会にこのようなプラスの変化が生じる」と明確に示すことができる到達点を、常に目指していきたい

(取材・撮影:ライティング株式会社 酒井若菜)