INTERVIEW

創発的先端人材育成フェローシップ採択者

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思考障害 自然言語処理 話し言葉

主治医の主観から機械による数値化へ

私は、統合失調症を発症した姉が、社会復帰しようと必死に努力する姿をずっと見てきました。姉を含め精神疾患に苦しむ患者さんを少しでもサポートできるものを作りたいと思ったことが、本研究のきっかけです。

統合失調症の症状の一つである思考障害は、会話中に話題が飛んでしまい、何の話をしているのかわからなくなってしまいます。ただし、会話中に話題が飛ぶことは健常者でも起こりますし、症状を定量化する方法もないため、担当医の主観が入ってしまうという問題がありました。

客観的な判断基準がないことは精神保健医療の現場でも課題とされており、近年は情報科学技術分野との共同研究が活発に行われている

そこで私は、コンピュータプラグラムによる自動測定で思考障害を数値化できるのではないか、と考えました。必要となるのは、構造的側面からの定量評価と、意味的側面からの定量評価です。この二つを合わせれば、総合的な思考障害の定量評価が可能になるはずです。

問いかけに対する返答の内容が100%一致するかどうかは判断できないため、質疑応答形式ではなく自由な発話を対象とする

「意味」と「構造」の2側面から総合的に評価する

構造的側面からの定量評価には、先行研究があります。統合失調症の有効な分類手法として、文章に含まれる単語の品詞のバランスを基準に判断するというものです。本研究ではこれを、話し言葉を評価対象としたシステムとして構築しています。  

意味的側面からの定量評価では、文章中の各単語の繋がりを評価します。たとえば先ほどの思考障害の図では、「コロナ」と「迷い箸」や「暗くなってからの歌禁止」は、意味が繋がっていません。これは単語をベクトル空間における数字表現に置き換え、ニューラルネットワークを用いて数字同士の近さを測定することで、自動判定が可能になります。

問題は、思考障害のレベルを評価する指標に、日本語版がないことです。どの指標が日本語にも適応できるのか、それとも一から作るべきなのかを、現在検討しているところです。

また、精神保健分野全体が抱える課題として、一般社会にはまだ「精神科に通院する」ことへの心理的な抵抗が存在します。現在は医療現場での補助的な活用を想定して開発していますが、将来的にはスマートフォンアプリのように一般の人々が簡単に使える形にすることで、精神疾患についての社会的な理解を広げ、精神科との距離が縮まる一助になればと願っています。

修士の2年間で、筋道立てた話し方などを訓練する自動ソーシャルスキルトレーニングシステムについての研究に携わった。本研究はそのシステムの一部でもある

研究計画書の作成と採択で、強く背中を押された

研究計画書の作成は「自分が本当にやりたいこと」を考えるきっかけになりました。そして採択されたことで、大きな自信が生まれました。言語分野の研究は幅広い知識が必要ですが、そのおかげでチャレンジングな部分にも本腰を入れて取り組めるようになりました。  

今後の進路はまだ未定ですが、私は人の役に立つシステムを開発しても「完成したら終了」にするつもりはありません。使用者の変化を見届けることができる環境で、研究や開発を続けていきたいと思っています。

多くの人々と出会い、支えていただいたおかげで、今日まで研究を続けることができた。その感謝を忘れることなく、一つひとつの機会を大切にして結果を出していきたい

(取材・撮影:ライティング株式会社 酒井若菜)