INTERVIEW

創発的先端人材育成フェローシップ採択者

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脳波 ブレインコンピュータインターフェイス ヒューマンコンピュータインタラクション

オーダーメイドの音楽で、感情をコントロールしたい

日常生活の中には、特定の感情を喚起しなくてはならない場面が存在します。たとえば「プレゼン前に緊張しすぎず、リラックスして臨む」などです。私は緊張しやすいため、感情を上手くコントロールできる技術がほしいと思い、研究を開始しました。

一般的に、音楽は人の感情に影響を与えると考えられています。しかし、すべての人が同じ音楽に対して同じ感情を抱くわけではありません。そこで、個人の感情変化に合わせて音楽を自動生成し、望む感情へと導くシステムが作れないかと考え、arousalとvalenceという2軸で決定されるモデルに着目しました。

音楽療法では患者の状態に合わせた音楽を用いるが、システムが人間の状態に合わせて自動的に音楽を生成するという研究は、まだ少ない

本システムは、脳波を用いたリアルタイムなユーザの感情予測と、そのフィードバックを受けて目的の感情へと導く音楽生成器で構成されています。 具体的には、ユーザが喚起したい感情の座標(下図の星マーク)を設定すると、システムがリズムやテンポを選択し、音楽を生成して流します。それによって生じた感情の変化を脳波から予測し、目的の座標により近づくようシステムが音楽を調節していくという仕組みです。

目的の座標を設定すると、テンポ、リズム、音量、ピッチ、コードなどの値が決定し、MIDI信号が生成。ピアノ、チェロ、バイオリンの仮想楽器から音楽が作られる

日常的に使用できるシステムを目指し、課題解決に取り組む

現時点での課題は、音楽パターンの充実化と、脳波からの感情予測の改良です。  

生成される音楽はテンポやリズムこそ異なりますが、どうしても似たような曲調になってしまい、実験参加者からも「飽きてしまう」と指摘がありました。今後、リズムやピッチ、コードなどの種類を増やしていく必要があります。

脳波を用いた感情予測は、日常生活で利用できるよう改良すること。脳波計測中は、実験参加者が動くとノイズが入ってしまいます。そこで、体動が生じる場面でも使用できるように、心拍や表情の変化なども検知対象に取り入れた、マルチモーダル情報による感情検知の導入も必須と考えています。

本システムを日常的に使用できるようになれば、多くの人々のメンタルヘルス向上に寄与できると期待しています。

他者とのコミュニケーションに不安を抱えている人はたくさんいる。博士課程を終えるまでには、会話中に本システムを使用した際の効果を検証したい

研究者として貴重な経験ができた

学部時代は電子情報通信工学科で制御工学を中心に学んでいたため、音楽、脳波、機械学習などを新たに勉強する必要がありました。大変でしたが、このシステムを実現したいという気持ちで乗り切ることができました。今後も、脳波と感情、そして個人に合わせたフィードバックをテーマに、研究を深めていくつもりです。

今回、このフェローシップに採択していただき、生活費などの経済面での不安が払拭されたことはもちろん、研究費で必要な機材も購入できたため、とても助かりました。研究遂行に対する責任を感じ、自身の研究費で研究を進められることは、これからの自分にとってかけがえのない経験になったと感じています。 研究に専念できる環境を得られる、貴重な機会です。ぜひ挑戦してみてください。

座右の銘は「日々精進」。新しい情報を日々インプットし、自分のアイデアを加えて、なるべく手を動かしてアウトプットする

(取材・撮影:ライティング株式会社 酒井若菜)