INTERVIEW

創発的先端人材育成フェローシップ採択者

TOP
BACK
植物共生微生物叢 メタ16S解析 微生物−微生物相互作用

持続可能な食糧生産の実現に向けて

私は、小学生の頃に祖父と農作業を行うことを通して、「将来は農業に貢献できる研究者になりたい と思うようになりました。学部4年間は農学を専攻し、修士課程からは情報科学的アプローチを用いて生物学を研究する、バイオインフォマティクスという研究分野に従事しています。  

本研究は、イネの根に内生する共生微生物叢の実態及び機能を解明することを目的としています。イネは世界で広く主食として食べられている穀物のひとつであり、共生微生物叢がイネの生育に与える影響が明らかになれば、化学肥料の過剰な使用に頼らない持続可能な食料生産の実現に貢献することができると考えています。

植物は多様な微生物との共生で環境変化に適応しており、とくに貧栄養環境における共生微生物叢は、宿主植物の栄養吸収に重要な役割を果たしていると考えられている

最初に、施肥がイネの共生微生物叢に与える影響を調べるため、優良無施肥圃場と隣接する有施肥圃場からイネの根をサンプリングし、それぞれメタ16S解析を行って比較しました。

その結果、有施肥圃場・無施肥圃場ともに、イネの生育に伴って共生微生物叢の多様性が高まることが明らかになりました。また、土壌栄養条件に依存した共生微生物叢構造の変化を確認しました。さらに、優良無施肥圃場に多く存在し、イネの貧栄養適応を促進すると予想される有用共生菌候補を推定しました。これらの研究は、本学バイオサイエンス領域の植物免疫学研究室との共同研究という形で進めています。

植物の根に内生する共生微生物叢。共生微生物叢構造は施肥条件や生育段階に応じて変動する

植物と微生物の相互作用を包括的に理解する

共生微生物叢構造の違いがイネの生育にどのように影響するのかは、まだ明らかにされていません。ですが、今回サンプリングした無施肥圃場のイネは、無施肥ながらも高収量を維持しているため、これらの共生微生物叢がイネの生育に良い影響を与えている可能性は大いにあります。今後、菌の単離培養および接種試験を行い、菌を接種した状態と接種していない状態を比較することで、接種効果を検証する予定です。  

また、有用共生菌の推定方法を改善するために、共生微生物同士の相互作用に注目した解析を行うことを考えています。たとえば微生物Aの増加とともに微生物Bも増えたなら、微生物AとBの間には何らかの相互作用が存在していると推測できます。

今後研究を進めていく上では、情報科学、植物学、微生物学など多岐にわたる分野を横断した連携が求められます。そのような領域で研究を統括して進めていくには、関連する分野に精通することが必要です。また、情報科学と生物学などバックグラウンドが異なる研究者同士のコミュニケーションも重要だと考えています。

イネと微生物の共生関係の理解が進めば、持続可能な食料生産や環境保全型農業の実現への貢献が期待できる

目の前の研究に専念することができる環境

近年、博士課程修了後の進路として、大学や研究機関で研究を続ける、企業で研究職に就く、エンジニアなど研究職以外の職に就く、など多様なキャリアパスが整備されつつあります。自分自身がどのような進路を選ぶかはまだ決めていませんが、まずは目の前の研究にしっかり取り組むことを大事にしたいなと思っています。  

このフェローシップに採択されたことで、経済的な不安は減少し、書籍や研究に必要な物品の購入など様々な投資が可能になり、より良い環境で研究に取り組むことができるようになりました。ここ数年で申請できる支援制度がかなり増えたので、チャンスを十分に生かし、多くの学生が研究しやすい環境を手に入れられるよう祈っています。

情報科学と生物学を中心に据えつつ、将来は他分野にも応用できる研究に挑戦してみたい

(取材・撮影:ライティング株式会社 酒井若菜)