INTERVIEW

創発的先端人材育成フェローシップ採択者

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認知行動療法 仮想エージェント 認知情報処理

認知行動療法に基づく質問の自動化で、一定の有効性を確認

認知行動療法は、不安や落ち込みが状況に対する患者自身の解釈に起因している場合、その客観的事実に気づくように質問で誘導していく、抑うつ障害などの精神疾患の治療技法です。
 本研究では、ユーザの言語・非言語情報から個人の悩みや思考の傾向を判断し、気分の改善に効果が高い質問を選択する質問選択モデルを構築することで、認知行動療法を実現するシステムの開発を目指しています。まずは下図の3課題をクリアするため、仮想エージェントとユーザの対話実験を実施しました。

認知行動療法に基づく質問シナリオと、対話の自動化における課題

結果、ユーザの思考パターンに沿った質問が選択された数とユーザの気分改善の度合いが相関関係にあること、表情から気分の変化を推測することが可能であることが示されました。ユーザが自動思考の同定に失敗するケースは多くみられましたが、成功・不成功の2値分類モデルを構築することで、適切な質問選択への誘導を可能にしました。

医療現場では認知行動療法だけではなく、複数の技法を合わせて対話するが、まずは機械化が可能な質問選択から取り組んでいく。画面に表示されているのは開発中の仮想エージェント

ユーザに適した質問・応答を行う、効力の高いシステムへ

人間の治療者であれば、患者の背景に配慮し、治療法の理論と自身の経験から最適な質問を選択しますが、機械は「◯◯の状況で、□□の質問を行うと、△%の割合で気分が改善した」というデータを基に、気分の改善効果が最大になる質問選択を行います。精度が上がれば、人間の治療者が行う認知行動療法に近づけることができると期待しています。

目標は、在学中に下図の提案1・2を実装したシステムを完成させ、研究室内実験を経て、医療機関でメンタル不調の傾向にあるユーザに対する効果を検証することです。また、メンタル不調にある人が長期間使用した場合のデータも得ることができれば、メンタルヘルスケアシステムの基盤理論や方法論として発展させていけると考えています。

工学視点のみでは医療的な妥当性からずれてしまう可能性があるため、大阪大学の精神医学分野の教授からも指導を受けて進めている

博士課程学生の「研究」と「就職」の悩みを幅広くサポート

この研究は、私自身が吃音で「話したいのに話せない」というストレスを抱えているため、同じようにコミュニケーションで悩んでいる人々が自宅で日常的にメンタルヘルスケアができるものを作りたい、という思いから開始しました。フェローシップのおかげで研究により専念できるようになったこと、とても感謝しています。

さらにこの制度の素晴らしいところは、研究成果を企業の前で発表する機会が与えられることです。私は情報科学分野の研究者として社会問題の当事者に寄り添い、支援技術の開発に貢献していくつもりですが、アカデミア以外で自分の研究をどう生かせるのか悩んでいました。そのような学生の悩みに真剣に向き合ってくれる制度だと感じるため、これから博士後期課程を目指す学生には、ぜひ挑戦してもらいたいです。

ずっと電子工学を専門としていたため、精神医学や情報科学の勉強をいちから始めた。今後も他分野の専門家と連携して研究を進めていくため、幅広い知識の吸収に努めたい

(取材・撮影:ライティング株式会社 酒井若菜)