INTERVIEW

創発的先端人材育成フェローシップ採択者

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スマートホーム 宅内行動認識 転移学習

ニーズに応じてセンサを組み替えられる行動認識システムの必要性

高齢化に伴う要介護者の増加防止は喫緊の課題であり、在宅における生活行動の把握がますます重要視されています。しかし、これまでに実施してきた研究活動を通して、一般家庭を対象とした既存のセンシングシステムには「カメラやマイクの設置に抵抗を感じる」という意見が多数あり、そのニーズが十人十色であることもわかってきました。

そこで、宅内センシングと行動認識システムが人々の健康寿命の延伸に寄与するためには、ユーザが任意に選んだセンサ構成で一定レベルの行動認識を可能とするホームOSと、間取りやユーザ特性が異なる家庭間データの転移・共有を可能とし、行動認識の精度向上を図る新しい手法が必要と考え、研究を開始しました。

運動や食事など分野ごとのヘルスケアではなく、生活全体を包括的に判断することができ、かつユーザの希望に応じたセンシングシステムで実用的な行動認識システムを作りたいと思った

ハードウェアの違い・家庭特性の違いを吸収する、新たな手法を開発

簡単にご説明すると、人々が日常的に行う、入室、点灯、椅子に座る、冷蔵庫を開くといった“細かい行動”(マイクロ行動といいます)の組み合わせやパターンを基に、「食事」「入浴」「就寝」等の“日常生活行動”に変換するための仮想行動センサの値を定義しました。たとえば寝室に入室し、ベッドに入って消灯するというマイクロ行動群を認識できれば、どの家でも「就寝」という日常生活行動をとった可能性が高いと判断できます。

さらに、居住者の行動やセンサ反応などから生活パターンをモデル化し、複数のグローバル行動認識モデルを作成。対象家庭のパターンモデル適合率を算出し、フェデレーテッドラーニングの手法を応用して、パターンモデルへの類似度を基にデータを重み付けして転移する方法を考案しました。

また、基本的に「貼るだけ」で設置完了する環境発電型センサの開発も進めています。これにより、ユーザ自身が選択したセンサでの行動認識が可能となり、たとえば福祉系や医療系サービスと連携することで、包括的なヘルスケアの提供を、低コストかつ最小限の手間で実現できると考えています。

一般家庭の高齢者の使用を想定し、センサ設置作業の簡略化・短時間化に努めた結果、類似システムと比べて設置時間を3分の2に短縮できた。室内光のみで発電するため電池も不要

「研究員」の自覚を持ち、成長できる好機

私のように企業への就職を希望する場合、データサイエンス領域では博士号が有利になる傾向があります。これまでは経済的な理由から、他の学生に博士課程への進学を勧めることは憚られましたが、このフェローシップのおかげでその心配もなくなりました。

私自身も生活に余裕ができ、研究費をいただいている「研究員」として確かな成果を出さなければ、という気持ちが高まりました。また、本研究以外の課外活動、情報処理推進機構の未踏IT人材発掘・育成事業に採択されたプロジェクトにも注力できるようになり、毎日が充実しています。

研究者として一番望ましいのは、開発したシステムが社会実装されることですが、そこに至るまでに得た要素技術から新たな可能性を模索し、提案していくことも重要だと思っています。社会に役立つものを作る、または作る手伝いができるような幅広い活動を目指して、これからも精進していきます。

機械学習は、常に対象領域の知識が必要となる。新しいことを学んで、新しいものを作る。一つの分野にとどまらず研究できるところが、この分野の面白いところ

(取材・撮影:ライティング株式会社 酒井若菜)