INTERVIEW

創発的先端人材育成フェローシップ採択者

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分散アルゴリズム モバイルエージェント ビザンチン故障

故障を許容する協調動作アルゴリズムへの挑戦

分散システムの設計手法には、ネットワーク中を自律的に移動し、データ収集やタスク処理を実行するソフトウェア“モバイルエージェント”を複数体用いるものがあります。この設計手法は、モバイルエージェントが互いに協力し合うことで、システムに高い自律性と適応性を持たせることができます。そのため、ネットワーク環境の発展に伴い、複雑化する分散システム設計の助けになるとして有望視されています。

しかし、モバイルエージェントがソフトウェアである以上、クラッキング等の攻撃の影響は避けられません。ネットワーク内を好き勝手に行動する故障を生じたエージェントが複数体発生した環境“ビザンチン環境”ならば、エージェントによるタスク処理が阻害され、システムが機能不全に陥るリスクが高まります。

ですが、その故障を許容してシステムを稼働し続けるアルゴリズムがあれば、たとえば銀行ATMのシステムに故障が発生しても、サービスを止める必要がなくなります。ユーザーは普段通り出入金や送金を行い、運営側も顧客対応に追われることなく修理に専念できるようになるのです。

昔からシステムの利用によって生じる「待ち時間」が嫌いで、
システムの効率的な管理や性能の向上、計算能力の向上に興味を持つようになった

高い故障耐性を持つ高速なアルゴリズムを目指す

モバイルエージェントが互いに協力して行動することでシステム運用はより効率的になるため、これまでに多くの協調動作を達成するアルゴリズムが提案されています。その協調動作の1つに集合と呼ばれる、1つの計算機にネットワーク内の全てのエージェントを集めることを目的とした動作があります。この動作は、モバイルエージェント同士の効率的な情報共有を実現し、複雑なタスクを実行する上でも必要となるため、様々なモデルにおいて集合を達成するアルゴリズムが考えられています。

ビザンチン環境においても集合アルゴリズムは考えられており、現在、時間をかけてでも故障耐性の最大化を目指したアルゴリズムと、故障耐性が小さい場合において高速な集合達成を目指したアルゴリズムの2つが提案されています。

一方で、これらの中間にあたる故障耐性において効率的に集合を達成するアルゴリズムは存在しなかったため、そのような故障耐性でも短時間で集合できるアルゴリズムの設計を目指しました。

同期弱ビザンチン環境における集合アルゴリズムの設計

あらゆる状況を想定し、設計・検証を繰り返してある程度の形ができたため、来年の前期には発表できる見通しです。

モバイルエージェントの協調動作アルゴリズムは、他と繋がってタスクを達成するシステムであれば応用可能です。社会を支える様々なシステムの基礎能力向上に寄与できると期待しています。

ビザンチン環境における集合では故障を生じたエージェントが集合達成を妨害するため、アルゴリズムの設計・検証には多くの時間が必要となる

自分の可能性を信じて、チャンスを掴んでほしい

わからないことは必ず調べ、知られていないことであれば研究して明らかにする。未知の領域を放置せず開拓していくことが、研究者としての私の信条です。今後はエージェント以外の分散システムのアルゴリズムについても、研究を深めていくつもりです。

ただし、研究には時間とお金がかかります。生活費も稼がなければなりません。そのような経済面の負担や不安を解消してくれたのが、今回のフェローシップ支援でした。おかげさまで気持ちの余裕にも繋がり、研究に集中できる時間が増えたと実感しています。

これは、自分の研究をより高みに押し上げるチャンスです。私の研究は目に見えない分わかりにくく、誰にでも理解できるよう伝えることは非常に困難でした。それでも指導教員や友人の助けを得て、何度も書類を書き直し、選考に通ることができました。どのような研究にもチャンスがあると信じて、多くの学生に挑戦してほしいと思っています。

研究活動への情熱が高まり、研究者として成長できる好機。ぜひ挑戦を

(取材・撮影:ライティング株式会社 酒井若菜)