ゼミナール講演

日時平成 17年 1月 17日(月) 4限 (15:10 - 16:10)
場所L1
講演者中沢一雄 先生
所属 国立循環器病センター研究所 室長
講演題目 Virtual Heart:スーパーコンピュータでつくった心臓
in silico study から電子カルテに向けての応用まで
概要
1.はじめに
 生命科学研究の分野においては、生命をシステムと見なし、細胞や組織、臓器といったように機能単位に構成的にモデル化して生命現象を理解しようとする手法が注目を浴びている。このようなモデル構成的な手法は、必然的に大規模なコンピュータシミュレーションにおいてのみ可能である。コンピュータ上に数値(式)モデルとして構築した仮想の生命機能単位を用いて研究することから、“in silico study ”と呼ばれることもある。我々は、スーパーコンピュータ上に仮想の心臓モデル(VirtualHeart )を構成し、電気生理学的シミュレーションを行うことで、致死性不整脈のメカニズムの解明や、予防・診断・治療に役立てるための研究を行っている。

2.シミュレーションモデル
 1つの心筋細胞の電気的特性は、基本的に細胞膜のイオンチャネルの特性によって決定される。イオンチャネルに基づく心筋細胞の電気生理的モデルは、 Hodgkin-Huxleyタイプの微分方程式系として提案されている。8変数1次微分方程式系のLuo-Rudy(LR)モデルは、現在、このようなシミュレーション研究の分野において最も多用されているモデルである。我々が開発した仮想心臓は、心室形状に配列したLRモデルユニットの3次元結合体として構成されている。各ユニットは、前後左右上下の6つのユニットと格子型結合させており、この仮想心臓の中には合計約564万ユニットのLRモデルが含まれている。ただし、ここでいうユニットは、実際の心室細胞1つを表すのではなく、単位容積の心室細胞の集合を表し、数値計算を行う上で便宜的に決めた単位である。仮想心臓の形状は、CG用に市販されているViewpoint 社の心臓形状ポリゴンデータを加工して作成した。このポリゴンデータは約10万枚のポリゴンで構成されており、ここから心室の部分だけを取り出し、心室上面にポリゴンを追加し、最終的に心室部分の仮想心臓として構築した。数値計算にはNEC製のスーパーコンピュータ(SX−6/8)を用いた。SX−6/8はベクトル処理と並列処理を併用して高速計算を行うベクトル−並列型のスーパーコンピュータである。256ベクトル長のベクトルプロセッサを最大8個まで使って高速計算を行うことができ、理論的には最大64Gflopsの計算速度が得られる。仮想心臓においては約4500万変数(8変数×564万ユニット)の微分方程式系の解を数値計算により求めている。

3.電子カルテに向けての応用
  医療におけるITとして“電子カルテ”が注目されている。我々は、既存のビジネスソフトのGUIとは全く異なる、ペン入力による電子カルテインタフェースの開発を行っている。そこで、このインタフェースから仮想心臓を稼働させる試みについて示す。心臓の形状を簡便に変化させ、簡易な電気性理学的シミュレーションをリアルタイムに行うことなどが可能である。患者さんのベッドサイドで実際に操作しながら示すことのできる効果的な説明ツールとして、あるいは医療従事者への教育ツールとしての応用などが考えられる。
備考
ゼミナールI,II予定ページへ戻る

平成16年度ゼミナール担当