INTERVIEW

日本学術振興会(JSPS)特別研究員

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ハードウェアセキュリティ 電磁両立性

電磁波を通じた情報漏えいリスクを仮想空間で可視化する

電子機器はその動作中に電磁波を発生しており、その電磁波が悪意のある第三者に受信・解析されると、情報が漏えいする危険があります。しかし、会社のオフィスやリモートワーク中の自宅で、電磁波の伝播を完全に防ぐことは極めて困難です。そのため、根本的な対策技術の開発は進んでいませんでした。

「抑えることができない」現象であるなら、自然災害と同様にその脅威を事前に認識しておくことが肝要です。たとえばパソコンからどの程度の電磁波が、どれくらいの距離まで伝播するのか。これを実際に計測すれば、危険な場所と安全な場所を把握できます。ハザードマップという発想は、ここから得ました。

高専時代、インターンシップで現在の研究室に4ヶ月ほど滞在し、自分の専門分野である電磁界シミュレーション技術がセキュリティ分野にも応用できるとわかり、強く興味を惹かれた

しかしテナント型のオフィスの場合、電磁波がどれくらい漏れているのかを、自社の所有ではない上階や下階に赴いて測定することは不可能です。そこで、仮想空間で現実世界の状態を再現し、電磁放射を通じた情報漏えいの危険があるエリアをハザードマップとして表現する技術開発に取り組みました。

オフィス内の「危険度が高い部屋」と「安全な部屋」をあらかじめ把握しておけば、「機密情報を扱う映像機器を安全な部屋に設置する」という対策ができる

シミュレーションの構築には高精度な計測技術の開発も必須

電磁的情報漏えいには複数の研究分野がありますが、私が主に取り組んでいるのはパソコンなどに接続されたディスプレイやプロジェクタなどの映像機器から放射される電磁波による情報漏えいです。  

現在は、映像機器がどのような電磁波を発生させるのか、そのモデリングを進めているところです。加えて、実際に映像機器が設置される空間には他の電子機器が存在するため「映像機器から発生した電磁波」のみの実測データを得るためには、要素ごとに測定しなくてはなりません。それを可能にする計測技術の高精度化が必須となります。

やるべきことは山積していますが、技術の進展により攻撃者が用いる計測器の低廉化、高性能化、小型化が進んでいるため、脅威は高まる一方です。このハザードマップ生成技術は、その脅威を予測する基盤技術になると期待しています。

電磁波分野の研究者として実測による正確なデータを重視し、シミュレーションを構築していく

多くの人にサポートしてもらい、特別研究員になれた

これまで私が取り組んできたテーマは、自身の興味や関心が強いものが中心でしたが、今は「学術的な貢献」に主眼をおいています。また、自分の研究をより広い範囲に展開するため、後輩との連携や他分野の研究者との交流を通じた知見の共有なども積極的に行うようになり「特別研究員としてやるべきこと」を常に意識するようになりました。  

今の自分があるのは、研究室内外で支えてくださった先生や、多くの先輩、同期の学生たちのおかげです。今後は自分の経験を生かして特別研究員を目指す後輩などをサポートしていきたいと考えています。

申請書の作成では先生やDC2で採用された先輩に見てもらってアドバイスをいただいたり、同期の学生と切磋琢磨したりして、とても勉強になった

(取材・撮影:ライティング株式会社 酒井若菜)