INTERVIEW

創発的先端人材育成フェローシップ採択者

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カルテデータ 抗生物質感受性 予測モデル

抗生物質の乱用を防ぎ、迅速かつ効果的な医療の実現へ

抗生物質にはさまざまな種類があり、その作用や対象も多様です。しかし臨床現場では、限定的に作用するものよりも、広い範囲に作用するものが治療に用いられる傾向があります。耐性が発生して効かなくなれば別の抗生物質を用いることになり、それを繰り返すことでどんどん耐性が増えるという抗生物質の乱用が、大きな問題となっています。

患者の症状に最も有効な抗生物質療法を実施するためには、通常はさまざまな検査を実施し、その結果から主治医が診断して、治療を開始します。この方法は時間と費用がかかる上に、最終的には主治医の知識と経験に基づく主観的な判断に委ねられてしまいます。

修士では天然物由来の新規の抗生物質に関する研究を行っていた。新しい抗生物質であっても、乱用によって必然的に耐性が発生するという問題が生じていた

AIを活用したツールで精密医療に貢献する

本研究では最先端の機械学習モデルを活用し、患者一人ひとりの症状に対して効果的かつ限定的に作用する抗生物質を選定するシステムの構築を目指しています。医療記録のみを参考に、AIが各患者の抗生物質耐性タイプを予測して、最適な抗生物質を医師に提案するというものです。

患者一人ひとりに対し、客観的判断によって効果的な抗生物質が選択され、医師は速やかに治療を開始できるようになる

私は学部時代に医学を専攻し、臨床医学を学びました。そのとき、医師個人の能力に頼るのではなく、AIをはじめとする情報科学技術を活用すれば、より幅広いソリューションを提案できるようになるはずだと感じました。そのため修士から情報科学の研究に取り組み、精密医療に貢献できるAIツールを追究してきました。

日本の患者の医療データを得ることは困難であるため、現在はアメリカのデータベースを活用して研究を進めています。今後はどの国の医療機関にも実装できる方法論を確立し、抗生物質療法の迅速かつ正確な意思決定に、世界的に貢献することを目指します。

医療AIの分野では、しばしば医師の意見がゴールドスタンダードとされる。しかし、機械学習は人間の意思決定の模倣ではなく、人間の限界を超えるために活用すべきと考えている

人々を幸福にする「幸せな研究者」になるために

以前は、アルバイトや奨学金がなくなれば留学生活を維持できないという不安がありました。しかしこのフェローシップに採択されたことでその不安は解消され、より良い環境で研究に取り組めるようになりました。

また、医学と情報科学の先生からそれぞれ助言をもらえたり、本テーマの必要性を他分野の先生にも認識していただけるなど、自分の研究をより高みに押し上げるチャンスをたくさんいただきました。私の人生を変えてくれた日本とNAISTの充実した奨学金制度に、心から感謝しています。

科学の原初の目的は、世界を変革し、人々を幸せにすることです。だからこそ、研究者が不幸な気持ちになってはいけません。心から楽しみながら研究に取り組むためにも、多くの学生が本フェローシップに挑戦し、チャンスを掴むことを願っています。

指導教員の金谷教授のように笑顔で研究に打ち込むことができれば、研究者自身もプロジェクトとともに成長していくと信じている

(取材・撮影:ライティング株式会社 酒井若菜)