視線情報を用いた注視点の3次元位置推定

満上 育久 (0151102)


 ロボットや高度情報処理機器等の発達によって, 人間の日常の中にもこれらの機器が入り込み始めている. この流れは今後ますます加速し,これらの機器が生活の中に 普及してくることが予想される. それに伴い,人間に要求される機器操作が増加・複雑化してくるので, 既存の操作方法ではない,さらに直感的で簡単な操作環境が 求められ始めている. このような背景のもと,近年, 人間と機械系のインタラクションが注目され, 盛んに研究されてはじめており, 人間が簡単に操作でき,なおかつ機械系が人間の意図を正しく理解し 動作するために,多くのアプローチが提案されている.

 その中で,ここでは注視による環境内の3次元ポインティングを提案する. 既存の,なんらかの操作・動作が必要なポインティング手法と異なり, 視線は人間が注意を払う方向に無意識的に向けられるという特徴があり, 実現できれば,非常に直感的でシンプルな操作を実現することが可能となる. また,得られるのが環境内の3次元座標という非常に低次元な情報であるが, 家電等の操作の際には各オブジェクトはその3次元位置から認識することができ, またロボットの遠隔操作の際などでも,操作対象や目的地の指定は やはり3次元位置で表現できるなど,3次元位置情報によって操作が行える例は多い.

 本研究では,人間の視線運動を計測することで,その人間が注視している 対象点の3次元位置を推定するシステムを提案する. このシステムを構築する際,視線方向の計測精度が非常に重要になるが, 人間の眼から注視点への正確な方向を知るには次のような問題を含む.

  1. 眼球計測装置の精度が不十分である
  2. 人間は1点を非常に正確に注視しているつもりでも,視線は正確に その方向を向いていない
 そこで本研究では,まず 1. についてはカメラの光学的な誤差要因を抑制することで キャリブレーション時に生じる誤差の軽減を図る. さらに, 2. のように不可避な誤差を含む視線情報からでも 注視点位置を高精度に推定することができるように, ある瞬間の視線情報のみではなく,人間が頭を移動させながら 1点を注視することにより得られる複数視線情報を統合する手法を提案する. この手法は,各視線情報の信頼度を利用した確率的アルゴリズムとして 実現されているため,高いロバスト性と精度を備えている. また,実験により提案手法の有効性を確認した. 本発表では,この提案アルゴリズムについて詳細を説明する. さらに,本手法の問題点にも触れ,今後の課題を述べる.