人工衛星の姿勢制御における大域的角速度オブザーバの設計

鎌田 圭 (0151033)


3軸姿勢制御衛星の姿勢検出には通常,地球センサやスタートラッカなどある基準ベクトルを観測する姿勢センサとジャイロなど慣性系に対する衛星の姿勢角速度を得るためのセンサが併用される.しかし,近年はスタートラッカの高精度化,高速化が進んだことや,コスト削減の要求,ジャイロ故障時の冗長性確保の必要などから,ジャイロは用いずにスタートラッカによる基準ベクトル観測値のみを用いて角速度推定する手法が検討されるようになってきた.この場合,基準ベクトル観測値による位置の差分から角速度を近似する方法が考えられるが,差分から得られた速度情報にはノイズの影響が非常に大きく誤差が大きい.このような問題を回避するためには,位置情報から角速度を推定する非線形オブザーバを構成する方法が考えられる.しかし,これらの報告は,大域的安定性を示せていないのが現状である.

 以上を踏まえ本研究では,位置情報のみから大域的に人工衛星の角速度を推定する非線形オブザーバを提案する.本手法では,人工衛星の運動方程式を回転行列$R$ではなく四元数による方法で表現する.それは,4個の変数で姿勢を表現するため,冗長度は1ですみ,3軸を等価に扱っており,運動方程式が簡単であること.さらに,運動方程式自体には,特異点が現れないこと.このような理由から四元数を用いた姿勢表現を採用することにする.また,同次なシステムにおいては必ず同次リアプノフ関数が存在し,リアプノフ関数の設計が容易であるという特性があるため1軸でのオブザーバを設計する際に同次性の概念を用いる.この1軸のオブザーバを参考に3軸の角速度オブザーバを設計する.この際,角速度の偏差をとるのではなく,運動量の偏差をとることによって慣性モーメントの主慣性モーメントが全て違う形でも偏差系のダイナミクスを構成でき,リアプノフ関数を用いることによって角速度オブザーバの大域的安定性が保証されることを示す.