多重スケール環境マップによる
粗さが不均一な材質への写り込みの高速レンダリング

奥村文洋 (0151027)


近年,コンピュータグラフィックスの分野において物体の表現能力を高めるための研究がなされている.これらの技術は,仮想環境内に仮想物体を挿入した場合の物体の見え方を写実的に表現するためなど,様々な用途に用いられている. 中でも,周囲の環境の写り込みを表現する環境マッピングとよばれる手法は幅広い分野で利用されている.この手法は高速に周囲の写りこみを表現するために開発されたものであるが,従来,表面の粗さが不均一な材質への写り込みの高速なレンダリングは困難であった.そこで本研究では,オフライン処理とハードウェア処理を組み合わせた写り込みの高速レンダリング手法を提案する.

本手法は,入力となる環境マップに対してフィルタ処理を行うことで,複数の粗さに応じた環境マップ(多重スケール環境マップ)を予め作成する.このとき,フィルタ処理を単純に実行すると膨大な計算量になる.そこで計算時間を短縮するために,ピラミッド画像と頂点数の異なる測地ドーム(Geodesic Dome)を用いて計算の高速化を行う.さらに,フィルタの影響が大きい画素のみを計算対象とし,フィルタの重みをテーブルとして保持することで高速化を行う.

そして,多重スケール環境マップをテクスチャとして用い,粗さが不均一な物体への写り込みを描画する.このとき,グラフィクスハードウェアに搭載されている3Dテクスチャマッピング機能を利用することで高速な描画を行う. 実験では,提案手法による描画結果とPhongモデルによる描画結果を比較し,提案手法において粗さが不均一な材質に対する写り込みを良く近似できていることを示す.さらに,高速化を行わない多重スケール環境マップと高速化を行った多重スケール環境マップを比較することで高速化の効果を検証する.最後に,全方位マルチカメラシステムで取得した全天球画像を環境マップとして用いて仮想環境内に仮想物体を配置した場合と環境を動画に拡張した場合の写り込みのレンダリング結果を示し,提案手法の有効性を示す.