ウェーブレット変換を用いた擬似自己相似過程の生成

佐々木 隆志 (9851044)


通信トラフィックに対する統計量のひとつに自己相似性がある. 自己相似性の強度はHurstパラメータと呼ばれるただ一つの 実数によって決定される. 実際のトラフィックの測定結果からHurstパラメータを 推定するにはいくつかの方法があるが, どの程度の時間にわたって測定すべきかの決定は 経験によるところが大きく, また測定機器の制約のために長時間にわたって 安定した測定をおこなうことは難しい. 自己相似性は無限の確率変数列に対して定義される量であるので, Hurstパラメータは無限とみなせるほどの長期にわたる 観測結果から推定するのが理想的である. しかし実際には有限時間での測定結果しか得ることができないため, 複数の部分的な観測から異なった局所的なHurstパラメータが推定される. ウェーブレット変換はスケールを変化させながら 時系列データを再帰的に扱うことができるため, このようなフラクタル的な性質を持つ 確率過程の合成および解析に適している. 本論文では局所的に推定されるHurstパラメータから 擬似的な自己相似過程を生成する手法を提案する. 生成された擬似自己相似過程は 厳密な意味で自己相似ではないが, 元のデータ系列の統計的特性を再現する可能性が あることを数値計算例で示す.