フィンランドのOulu大学で2008年6月初めから1月末までの8ヶ月間滞在し、積雪環境における高齢者の転倒の様子をコンピュータグラフィックス(CG)を用いて可視化する研究を行った。研究活動は、フィンランド人の学生と共に共同で行った。
フィンランドでは全人口に対する高齢者の割合が年々増加傾向にあり、高齢者の生活をサポートするための取り組みがいくつかなされている。その一つとしてOulu大学など複数の機関でSmart Living Environment for Senior Citizen (SESC)プロジェクトが進められている。SESCプロジェクトでは最新のテクノロジーを用いて高齢者が安心して暮らすためのシステムを開発しており、そのプロジェクトの一部を担当した。
毎年多くの人が転倒によって怪我を負っており、その中でも高齢者が占める割合は他の年代の人よりも多く問題となっている。転倒による骨折した患者の割合を季節別に調べた研究によると、特に冬は雪・氷の影響により他の季節よりも転倒で骨折する人の割合が多い。SESCプロジェクトの中で、高齢者とその保護者に対し冬に起こる転倒への注意を促すため、CGを利用し積雪環境および転倒する高齢者を表現するシステムを開発した。
開発したシステムでは、転倒アニメーションおよび雪片の降雪アニメーションを生成するために、既存の物理エンジンを利用した。転倒原因と転倒方向との関係について調べた先行研究を基に転倒方向を決め、その方向に力を加える事で転倒の様子を表現した。積雪の様子は高さマップを基としたアルゴリズムで実現し、徐々に雪が積もっていく様子を示した。結果として、リアルタイムで転倒アニメーションを生成し、冬の転倒の様子を可視化できるシステムを提案することができた。将来的に、開発したシステムを利用した高齢者とその保護者が冬の転倒に対し注意することで、一件でも転倒事故が減る事を願う。
所属した研究室には数多くの交換留学生がいて、お互いの研究内容や母国の文化などを話し合った。研究はフィンランド人の学生と共に行い、技術に関する議論を何度も繰り返し行なった。また、12月にOulu大学で行われたSESC Work shopに参加し、研究パートナーと共に研究成果のデモを行った。これらの活動を通じ、国際的に活躍できる技術者への第一歩を踏み出せたと思う。
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