2008.2.7-2008.2.29 ベルギー、ルーバン・ラ・ヌーブ
ルーヴァン・カトリック大学 インターネット工学講座: 博士後期課程2年 |
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今回の派遣先であるベルギー ルーヴァン・カトリック大学 (Universite catholique de Louvain; UCL) のIP Networking Lab (INL) は、Olivier Bonaventure教授が率いるIPネットワークおよびインターネット関連技術の研究グループで、約10名のポスドク研究員と博士後期課程学生から構成される。INLの研究テーマは、インターネットにおけるルーティング技術、ネットワーク計測技術、ネットワーク運用管理技術など、インターネットのコア技術に関連するものが多い。
今回の海外派遣は、以前から共同研究を行っていたINLのポスドク研究員であるBenoit Donnet博士との間で、今後の協力体制とその内容についてのより綿密な打ち合わせと、研究分野での意見交換を目的として行われた。我々は、彼の考案したIPネットワークトポロジの協調分散計測アルゴリズムであるDoubletreeを、私の研究を通じて開発されたN-TAPという分散ネットワーク計測基盤上に実装することで、Doubletreeの実インターネット環境での性能評価や、より効率的な分散計測基盤および分散計測方式の研究・開発に取り組んでいる。DoubletreeをN-TAP上に実装したシステムDecentralized Tracing System (DTS) は、複数の観測点で自律的に動作する計測エージェントが計測用のオーバレイネットワークを構成し、他のエージェントとDoubletreeアルゴリズムに従って協調することで、重複したトポロジ探索を避け、全体的なトポロジ探索効率を向上させる。N-TAPは、協調分散計測アルゴリズムに必要となる計測ノード間の共有記憶領域や通信機能を提供するもので、これらの機能を活用してDoubletreeをN-TAP上に容易に実装している。今回の派遣における研究活動についての主な議論点は、DTSの有効性を評価するために行う実験内容と、DTSの性能向上のための設計見直しであった。議論を通じて、前者の題目については実験環境やトポロジ探索範囲の選定、およびその妥当性について意見の合意に至り、また実験環境の一部をUCLが保有するEverLabのノード群からも供出していただけることとなり、実験の実行への大きな足掛かりとなった。後者の題目については、すでに完成していたDTSのプロトタイプ実装の構造について議論を行い、トポロジ探索処理部分のチューニングや並列化を行うこととなった。その後、実験準備や論文執筆について高い頻度でミーティングを行い、計画を円滑に進めていった。派遣期間終了までに、実装改良作業の大半の完了と実験準備に取りかかる段階にまで達することができた。派遣期間中に決定された計画は現在も進行中であり、現在、論文誌への投稿論文を準備している段階である。また、DTSのソースコードは、オープンソースソフトウェアとしてWebに公開される。 今回の派遣を通じて、遠隔の共同研究者と直接面と向かって意見を交換することにより、互いの結束を強め、研究内容についても深い理解を得ることができた。特に、実装の細かい面に至るまで、その設計方針の意識を共有できた点は意義深い。今後のスムーズな共同研究活動に、この海外派遣が大きく寄与したと信じるところである。 派遣期間中には、共同研究者以外のINLメンバとも交流を持つことができた。期間中に、互いの持つデータセットやネットワーク運用ノウハウなどを交換することができ、有意義であった。また、INGI Research Meetings (IRM) と呼ばれるUCL学内の情報科学系の研究者が集まり研究発表を行う場で発表の機会をいただき、”An Application-Oriented Measurement Platform: Challenges for Grasping the Internet”という題目で1時間の発表とそれに対する議論を行い、自身の研究内容についてフィードバックを得ることができた。 |