大規模システム管理研究室

不確実な社会に対するスマートな意思決定に向けた数理的手法の探求と情報処理技術の創造

教員

  • 笠原 正治

    教授:笠原 正治

  • 原 崇徳

    准教授:原 崇徳

  • 中畑 裕

    助教:中畑 裕

  • WIRAATMAJA Christopher

    助教:WIRAATMAJA Christopher

研究を始めるのに必要な知識・能力

数学・プログラミング・アルゴリズム・ネットワーク等、情報科学の基礎知識を持っていることは望ましいですが、それ以上に新しいことに挑戦する意欲、旺盛な好奇心、知的探究心、研究に対する明確なビジョンを持っていることが重要です。

研究室の指導方針

研究テーマについては個人のバックグラウンドを考慮し、教員と議論しながら研究テーマを絞り込んでいきます。研究テーマに必要な基礎事項を習得しつつ、先端の研究動向を踏まえながら、独創性に富んだ研究を遂行してもらうと同時に、研究室内での研究報告やディスカッションを通じて論理的な思考と研究プレゼンテーション能力を高め、国内学会や国際会議での研究発表、学術論文誌への論文投稿を通じて世界に通用する研究コミュニケーション能力を養います。

この研究で身につく能力

本研究室のテーマを研究することにより、大規模かつ複雑な情報システムの設計・制御・評価に役立つ先端的な情報科学の理論やネットワーク、データ構造、アルゴリズムの幅広い知識が身につくと同時に、大規模システムの本質を把握する能力が育まれます。また近年のビッグデータ解析や機械学習のような、時代の要請で必要となる理論や手法に対する学習の取り組み方、応用の仕方を身につけることができ、それによって将来の研究開発トレンドに柔軟に対応できる学習応用力が養われます。

修了生の活躍の場

情報通信・情報サービス系企業、コンサルティング系企業

研究内容

大規模システム管理研究室では、不確実性の高い社会システム(大規模災害時の避難支援や仮想通貨技術など)に対し、IoTやビッグデータ解析、機械学習など最先端の技術を駆使して、協調や連携を創発する意思決定メカニズムの研究に取り組んでいます。研究内容としては、限られた情報量やユーザ間の利害関係といった制約の下、最適な意思決定を行うメカニズムの実現を目指し、数理アナリティクス、リスク予測・分析、大規模データ処理アルゴリズム、ビッグデータ解析、機械学習、といった情報科学の最先端の知見を駆使して、人やモノの行動予測、大規模災害時の被害把握・避難支援の自動化、仮想通貨やスマートコントラクトといったフィンテックを支えるブロック・チェーン技術、物流ネットワークやソーシャルネットワークから得られる莫大なグラフ構造データに対する高速解析技術といった、不確実性の高い社会システムのスマート化に向けた研究を幅広く行い、産業に密接した研究成果を発信しています。

数理アナリティクス

図: 分散型仮想通貨エコシステム

図: 分散型仮想通貨エコシステム

応用確率論や理論アルゴリズム、ゲーム理論やメカニズム・デザインといった情報科学の知見を駆使して、ビッグデータを高度に活用する超大規模なデータセンターやネットワークシステムのデザイン、さらにはシステム上で提供されるサービスの設計や、ビットコインに代表される分散型仮想通貨エコシステムに関する研究を行います。

超スケーラブル汎用ブロック・チェーン技術

図: DSSトリレンマと二種類のブロック・チェーン

図: DSSトリレンマと二種類のブロック・チェーン

仮想通貨の基盤技術であるブロック・チェーンには、分散性・安全性・拡張性の三要素を同時に満たすことができないトリレンマ関係が存在し、そのため不特定多数の参加ノードからなる分散システム上で、高度なセキュリティを保証しかつ高速なトランザクション承認を提供するブロック・チェーンの実現が不可能と言われています。本研究テーマでは、ブロック・チェーンのトリレンマを克服するための方法論を情報学横断的に探求することを目指しています。具体的には、(1) 脆弱なセキュリティの原因となるチェーン分岐現象を数理的に解明し、(2) 情報量が圧縮されかつ高速演算可能な先進的データ構造をブロック構造やチェーン・トポロジー構造に適用し、加えて(3) ブロックの高速ブロードキャスト配信を可能とするP2Pネットワーキング技術を創出し、それらの要素技術を効果的かつ有機的に統合・融合させることで、極めて汎用性の高い超スケーラブル・ブロック・チェーン技術の創出を目指しています。

情報通信機器と防災ナッジを活用した群衆避難支援

図: 人と機器の融和に基づく自動避難誘導と地理ビッグデータを用いたリスク分析

図: 情報通信機器と防災ナッジを活用した群衆避難支援

大規模な自然災害や人的災害の発生は無視できないものであり、大規模災害の発生を前提としたライフライン設計が求められます。本研究では、人流・物流・情報流の観点から災害ライフラインを設計することで、防災ナッジを活用した群衆避難誘導を確立します。平常時には、ゲーム理論・数理最適化・機械学習などを駆使して物流と収容環境を考慮した避難所割当を実現するとともに、大規模災害に対して冗長性・強靭性を備えた情報通信基盤の創出を目指します。一方で、非常時には、モバイル端末やセンサネットワークを利用して、避難誘導と被災情報の収集と拡散を自動化し、防災ナッジを活用した群衆避難誘導方式の実現を目指します。防災ナッジにより、個々の利己的な避難行動の結果を全体最適となるような群衆行動に誘導します。

ネットワーク内AI

図: ゲーム理論に基づく利己的最適制御とその応用例

図: ネットワーク内AI

現在様々なモノがネットワークを介して接続しています。本研究では、数理的なアプローチと実装を含めた実践的なアプローチを駆使して、AI、ネットワーキング、プログラミングを相互連携し、地理的に分散している計算ノード群が協調してAIモデルを実行する計算融合通信アーキテクチャを創出します。また、ネットワークレイヤの観点から、分散型機械学習に分類される連合学習(Federated learning)や分割学習(Split learning)におけるレイテンシや通信量の削減とプライバシの確保を目指しています。

信頼されるAIのためのアルゴリズム

図: ZDDを用いた圧縮索引化とクエリの例

図: ZDDを用いた圧縮索引化とクエリの例

近年のAI技術の発展と普及には目覚ましいものがあります。しかし、様々な問題点も明らかになってきました。AIは良い解を見つけてくれるが、それがなぜ良いのかわからないという信頼性の問題や、AIが特定の属性の人に不利益な判断をしてしまうという公平性の問題などがあります。しかしこれらの問題を解決するには、膨大かつ複雑な探索空間を効率よく処理する必要があります。そこで本研究では、最新のアルゴリズム技術を用いることで、真に社会の要請に応えるAIの実現を目指しています。具体的には、ゼロサプレス型二分決定グラフ(ZDD)などの圧縮データ構造を用いた高速なアルゴリズムを研究しています。実社会の問題への応用として、ネットワーク信頼性評価、公平な避難所割当や選挙区割、多様な解の列挙といった問題に取り組んでいます。

モノのインターネット(IoT)のためのブロックチェーンベースのアクセス制御

モノのインターネット(IoT)のためのブロックチェーンベースのアクセス制御

図: モノのインターネット(IoT)のためのブロックチェーンベースのアクセス制御

モノのインターネット(IoT)デバイスの急速な普及は、ヘルスケア、交通、スマートホームなどの産業に大きな変革をもたらし、シームレスな相互接続と自動化を可能にしました。これらのデバイスは、リアルタイムのデータ交換と通信を通じて、ユーザーに高度な制御と機能性を提供します。しかし、その広範な導入はセキュリティやプライバシーに関する重大なリスクを伴い、不正アクセス、データ漏洩、サイバー攻撃の標的となる可能性があります。したがって、これらの脅威を効果的に軽減する強固なアクセス制御メカニズムの設計が不可欠です。

本研究では、ブロックチェーンの分散型特性と高度な暗号技術を組み合わせることで、スケーラブルかつプライバシー保護を考慮したアクセス制御システムの開発を目指します。特に、Succinct Non-Interactive Argument of Knowledge(SNARK) 技術を活用し、セットメンバーシップ証明、ルックアップ引数、zkSNARK などを組み込むことで、ブロックチェーンベースのアクセス制御(BBAC) の実用性を向上させます。我々の研究では、BBACのコスト効率、遅延、計算効率の向上を重視し、さらに、そのセキュリティとプライバシーを厳密かつ形式的に証明することを目指しています。

研究設備

大容量メモリサーバ

研究業績・共同研究・社会活動・外部資金など

研究業績

  • Y. Zhang, S. Kasahara, Y. Shen, X. Jiang, and J. Wan, “Smart Contract-Based Access Control for the Internet of Things,” IEEE Internet of Things Journal, vol. 6, no. 2, pp. 1594–1605, Apr. 2019, doi: 10.1109/ JIOT.2018.2847705.
  • T. Hara and M. Sasabe, “Practicality of in-Kernel/User-space Packet Processing Empowered by Lightweight Neural Network and Decision Tree,” Computer Networks, vol. 240, article no. 110188, Feb. 2024. doi:10.1016/ j.comnet.2024.110188.
  • C. Wiraatmaja and S. Kasahara, “Scalable Anonymous Authentication Scheme Based on Zero-Knowledge Set-Membership Proof,” Distrib. Ledger Technol., vol. 4, no. 1, p. 3:1-3:24, 7 2025, doi: 10.1145/3676285.
  • Y. Nakahata, J. Kawahara, T. Horiyama, and S. Kasahara, “Enumerating All Spanning Shortest Path Forests with Distance and Capacity Constraints,” IEICE Transactions on Fundamentals of Electronics, Communications and Computer Sciences, vol. E101.A, no. 9, pp. 1363–1374, 2018, doi: 10.1587/transfun.E101.A.1363.


社会活動

国内外の学術論文誌編集委員、国際会議や国内研究会の運営委員



外部資金

科学研究費基盤研究(B)、若手研究2件