計算行動神経科学研究室

脳の情報処理機構に基づいて、人間の行動原理を探求

教員

  • 田中 沙織

    特任准教授:田中 沙織

  • 荻島 大凱

    特任助教:荻島 大凱

  • WEL 荻島 大凱 Ilboud

    特任助教:Wendyam Eric Lionel Ilboud

  • 川島 一朔

    客員助教:川島 一朔

研究を始めるのに必要な知識・能力

脳科学(神経科学)や数理モデルに関する専門的な知識は必要ありません。研究を進める上でプログラミングスキルは身につけていただきます。

研究室の指導方針

まずは興味のある研究テーマについて先行研究を読み込んでもらい、時間をかけて研究テーマを決めていきます。テーマが決まれば、実験計画の立て方、データ解析方法、結果のまとめ方、発表方法などについて指導しながら進めていきます。特に脳画像計測実験を伴う研究テーマの場合は、実験的手法およびデータ解析手法のトレーニングに時間をかけます。セミナーは数理情報学研究室や計算神経科学研究室(ATR連携)と合同で実施します。

この研究で身につく能力

人を対象とする脳画像計測実験や行動実験の計画、実施、データ解析、論文作成までの研究能力を身につけられるように指導をします。データ解析では、具体的に、MRIをはじめとする脳画像データ解析や、数理モデルベースの行動解析、機械学習を用いたデータ駆動型解析などの能力が身につきます。また研究計画書やプレゼン資料も納得できるまで指導しますので、これらの作成スキルが身につきます。

修了生の活躍の場

2022年4月に新設された研究室のため、修了生はまだいませんが、2021年度まで所属した計算神経科学研究室で指導した修了生は、データサイエンティスト、プログラマー、大学の研究職として活躍しています。

研究内容

人間は環境とインタラクションしながら意思決定や学習を行う主体であり、その行動には主体の特性に加え環境側の特性も反映されます。本研究室では、人間をそれを取り巻く環境も含めて理解するために、脳の情報処理機構に基づく行動モデルの構築と、実験的手法やデータ駆動的手法による検証によって、人間行動の原理探求を行うとともに、社会応用に関する教育研究を行います。

数理モデルに基づく人の学習パラメータの推定とその脳基盤の解明

人の行動を数理モデルによって記述し、そのパラメータと個人特性の間の関係を脳基盤とともに調べています。具体的には、精神疾患の数理モデル構築と臨床データでの検証(図1)、思春期の行動の数理モデル構築と大規模コホートデータでの検証、また日常生活における行動特性と学習パラメータの関係を調べています。

図1:強迫症の数理モデルと推定された学習パラメータ

図1:強迫症の数理モデルと推定された学習パラメータ

個体脳-世界相互作用に基づく人間の当事者化の脳行動モデル構築

個体と世界の再帰的な相互作用ループが、社会環境と個体特性のアンマッチによる困難を考える上で重要であるとし、脳ドーパミン機能が担うとされる法則性に着目した個体脳モデルを構築します。世界側のモデルも構築して統合することで、個体脳ドーパミン機能-世界相互作用ループのモデルを構築し、思春期大規模行動データおよび脳画像データを用いてモデルを検証します(図2)。

図2: 個体脳-世界モデル構築と大規模データによる検証

図2: 個体脳-世界モデル構築と大規模データによる検証

大規模脳・行動データベースの構築と利活用

脳・行動の多変量データと機械学習を組み合わせた「データ駆動型」アプローチにより、特定の仮説にとらわれず”holistic”に個人特性のメカニズムを解明する試みが盛んです。大規模データを用いた発達や疾患のメカニズム解明に取り組むと共に、精度が高くかつ汎化性能の高いデータ駆動型解析に必要な、大規模データベースの構築と最適化を目指した研究を行います。

研究設備

ATR脳情報通信総合研究所(https://bicr.atr.jp/)の実験設備(MRI装置や脳波計測システム)を利用できます。また、複数のプロジェクトの脳画像データベースのリソースを利用できます。

研究業績・共同研究・社会活動・外部資金など

おもな研究業績:

  • Sakai Y, Sakai Y, Abe Y, Narumoto J, Tanaka SC. Memory trace imbalance in reinforcement and punishment systems can reinforce implicit choices leading to obsessive-compulsive behavior. Cell Rep. 2022;40(9):111275. doi:10.1016/j.celrep.2022.111275
  • Kawashima I, Nagahama T, Kumano H, Momose K, Tanaka SC. Pavlovian-based neurofeedback enhances meta-awareness of mind-wandering. Neural Netw. 2023;158:239-248. doi:10.1016/j.neunet.2022.11.024
  • Tanaka SC, Yamashita A, Yahata N, et al. A multi-site, multi-disorder resting-state magnetic resonance image database. Sci Data. 2021;8(1):227. doi:10.1038/s41597-021-01004-8

外部資金:

社会活動:

  • Neuroscience Research誌Associate Editor (2017-)、日本脳科学関連学会連合・脳科学将来構想委員会委員(2019-)、日本神経科学会・利益相反委員(2020-)、日本神経回路学会・理事 (2021-)など。