生命医療データ科学研究室

データと数理を活用した未来の医療を創りませんか?

教員

  • 藤原 幸一

    教授:藤原 幸一

E-mail fujiwara.koichi@naist.ac.jp
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研究を始めるのに必要な知識・能力

線形代数・微分積分学などの解析学と確率・統計についての知識、プログラミングにつての基礎的なスキルは必要です。生物・医学やプログラミングなどは研究室に配属されてから勉強すれば、問題ありません。

研究室の指導方針

機械学習を学べる環境はいろいろと整備されていますが、プログラミングを学んだだけでは「データそのもの」まで理解しているとは言えません。データの背後にある物理や計測限界について理解せず、ライブラリだけ適用しても、よい解析にはつながないためです。本研究室では、可能な限り解析対象とするデータが測定されている現場に学生のみなさんを連れて行き、現地現物で測定環境の確認をさせ、自ら現場を確認することの重要性を体験してもらっています。このように本研究室では、物理化学的、生理学的な知識や経験に裏付けられた上で、データそのもの理解できる指導を心がけています。

この研究で身につく能力

本研究室では、主に生物医学データ、特に臨床データの解析による病態の解明や新たな診断・治療技術の開発と実用化を目指しています。そのために、各地の施設に訪問し、現場の医師や看護師だけではなく、行政とも協力して現場から臨床データを収集し、解析しています。また、健常者を対象とした研究では、自分たちで被験者実験を行うこともあります。
そのために研究活動を通じて、機械学習や生物医学統計、心理学、数理モデルなどの知識・スキルの習得だけではなく、フットワーク軽く、世界中どこにでも出かけて、多様な人と協同できる人材を育成します。また、研究室として国際会議での発表や留学を強く推奨しているため、在学中に海外経験を積むことができます。

修了生の活躍の場

多くの修了生が、機械学習やデータを扱うIT系企業やAIベンチャーなどに就職しています。また、生体信号処理や被験者実験の経験を活かして、ヒトを対象とした機器である自動車やゲーム会社などでも活躍しています。

研究内容

世間にはAIという言葉が溢れています。現代のAIは、大量の正解データを機械に学習させることで、学習に用いていない未知データを識別するというフレームワークを採用しています。これは大量の正解データが低コストで得られることを前提としています。 このようなビッグデータの研究はすでにレッドオーシャンです。AI業界は大量のデータと高速な計算機、優秀なエンジニアを沢山抱えているところが、必然的に勝てるようになっています。すなわち、AI業界はすでに装置産業であり資本力の勝負といえるでしょう。

スモールデータの世界は違います。スモールデータとは、たとえばある装置の故障データなどデータの発生自体が稀だったり、疾患についての臨床データなど倫理的な理由で収集するのが困難なデータのことを指します。さらにスモールデータでは、限られた専門家でないとデータの解釈が困難な場合が多く、ラベル付けも高コストであったりします。したがって,スモールデータを対象とする研究においては、データをクリーニングしフォーマットを揃え解析可能なデータセットを構築すること自体にも、大きな価値があります。スモールデータ解析においては、データの背後にある因果関係や物理、生理学についての知識、さまざまなケーススタディ、専門家の持っているノウハウ・暗黙知などを積極的にモデリングに取り込む必要があります。そしてそのような知識は少数の専門家が作っていることを考慮すると、スモールデータの分野ではAIの性能は人間を越えることができず、高々、少数の専門家の性能を近似するのが限界であることがわかります。

このようなスモールデータ解析は、理論研究の立場からすると、システマティックでないように感じられるかもしれません。しかし現実の複雑な問題の解決には、理論だけでは対処できず試行錯誤を含みます。試行錯誤の過程においてスモールデータ解析に関してのノウハウが蓄積され、さまざまなドメインの知識とともに、そのノウハウは体系化されるでしょう。このように、スモールデータの研究には、まだまだブルーオーシャンが拡がっているのです。

我々の研究室では、スモールデータを解析するための方法論の確立や、新たな機械学習アルゴリズム、数理モデル開発も実施しています。具体的には、次元削減手法、不均衡データ解析アルゴリズムや異常検知・診断アルゴリズムの開発を実施しています。

さらに、スモールデータ解析技術を用いて、てんかんや睡眠障害、循環器疾患などの疾患を対象に、多くの病院、研究機関と連携して臨床データを収集しています。診療科を跨いで日本各地に構築した病院、専門医とのネットワークこそが我々の最大の財産です。それでも不足するデータは、自分たちで実験を行ってデータを収集し、その解析を通じて医療AIや医療機器の開発を行っています。さらにこれらのデータ解析によって、さまざまな疾患の機序の解明など、基礎医学・生理学への貢献を目指しています.

図1 Schematic diagram of epileptic seizure prediction system under development

図1:Schematic diagram of epileptic seizure prediction system under development



図2 Original smartphone app for health monitoring

図2:Original smartphone app for health monitoring

研究設備

脳波・心電図・筋電図などの生体信号計測システムおよび経皮的耳介迷走神経刺激(taVNS)装置などの被験者実験のデバイス群を保有しています。

研究業績・共同研究・社会活動・外部資金など

たとえば以下のプロジェクトを進めています。

  • てんかん発作予知AIシステムの実用化(AMED医工連携・人工知能実装研究事業)
  • イヌのスーパーセンシング能力の解明(JST CREST マルチセンシング)
  • SEEG(深部脳波)データの解析(名古屋大学脳外科との共同研究)
  • レム睡眠行動障害の病態メカニズムの解明と早期診断技術の開発(滋賀医科大学精神科との共同研究)
  • 術中麻酔下の生体信号の解析(名古屋市立大学麻酔科との共同研究)
  • 統合失調症患者など精神疾患の脳波およびモデル動物、脳オルガノイドの電気活動データの解析(名古屋大学脳神経病態制御学講座との共同研究)