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ネットワークシステム学研究室
浦上 大世
Taisei Urakami
周波数共用自律 Intelligent Reflecting Surface の実装に関する研究
第5世代及び第6世代移動通信(5G/6G) Intelligent Reflecting Surface(IRS) メタサーフェス ビーム予測 -
多様な周波数帯の電波を複数方向に反射する、新たなIRSの開発
次世代移動通信である5Gや6Gでは、マイクロ波よりも高い周波数のミリ波帯やサブテラヘルツ波帯の電波が用いられていますが、高周波帯の電波は直進性が強く、回折しにくいという特徴があるため、エリア内に十分な通信環境を確保できない「不感地帯」が発生する恐れがあります。
新たに基地局を建てれば不感地帯を減らすことはできますが、コストがかかる上に景観を損ねます。反射面上の位相を変化させて基地局からの電波を不感地帯に反射できるメタサーフェス反射板なら、低コストでビルの屋上や窓に設置が可能ですが、現時点では特定周波数の電波を1方向にしか反射できません。そのため、複数の周波数の電波が共用される環境や、ユーザーの移動に適応できていないのです。
この問題を解消するため、本研究ではさまざまな周波数の電波を複数の方向に反射できる反射板(IRS:Intelligent Reflecting Surface)の開発と実装を目標としています。
4周波の位相変化および自律的な反射方向制御を実現する
従来の反射板との違いは「複数方向の制御」と「4周波共用可能」です。
まず、反射板の素子に可変容量ダイオードを採用し、四角形ではなく八角形にすることによって、4方向への位相変化を可能としました。これにより、4周波の反射方向制御が可能な、新たなメタサーフェス構造を提案しました。
加えて、一定範囲に存在するユーザーからデータを収集し、伝送レートが最大になる角度を自律的に決定する強化学習アルゴリズムの構築に取り組んでいます。
このハードウェアの位相設計では、反射板の反射面上における位相が合計360度変化するように、各素子を等間隔に設置する必要があります。僅かな位相のズレが反射角や反射特性に影響するシビアな設計となるため、トライアンドエラーを繰り返しました。
反射方向制御に関しては「雨が降ると電波が減衰する」といった、気象条件等による影響を学習させる教師データの作成が困難でした。しかし、ユーザーのデータを常に収集して自ら学習していく強化学習であれば、そうした影響の考慮も可能になると考えています。
博士後期課程への進学をフェローシップが叶えてくれた
私は経済的な不安から博士後期課程進学について悩んでいた時、指導教員から本フェローシップを勧めていただき、申請しました。この制度を知らなければ、進学を諦めていたかもしれません。
採択されたおかげで研究のために使える時間が倍増し、パソコンや参考書の購入代、学会年会費といった経費も給付していただき、たいへん助かっています。私と同じ理由で博士後期課程への進学を迷っている学生は、決して少なくないと思います。どうか諦めずに本フェローシップに申請し、チャンスを掴んでください。
(取材・撮影:ライティング株式会社 酒井若菜)