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コンピューティング・アーキテクチャ研究室
押尾 怜穏
Reon Oshio
大規模汎用インメモリ・ニューロモーフィック計算機構のエミュレータ開発
ニューロモーフィックコンピューティング 新原理計算 低消費電力AI -
未来のAI社会を見据えた低消費電力のハードウェア開発
私は計算論的神経科学や脳型計算に興味があり、大学ではニューロモーフィックコンピューティング向けのデバイスシミュレーションを研究していました。デバイスのサーベイを進める中で、より高いレイヤーから絞り込みを進める必要があると感じ、この分野に進みました。
現在のAIを実現している深層ニューラルネットワーク(DNN)は、計算に必要なエネルギーが大きく、低速です。今後ますます低消費電力計算基盤が不可欠となるため、新しいコンピューティング・アーキテクチャの選択肢として、ニューロモーフィックコンピューティングへの期待が高まることは間違いありません。
そこで本研究では、スパイキングニューラルネットワーク(SNN)に特化したアーキテクチャを開発し、超低レイテンシ・超低消費エネルギーAIの実現を目指しました。
移動データ量を大きく低減し、処理速度を高める
通常のDNNの消費電力が大きく低速になる原因は、主にデータの移動量の多さです。SNNは情報量が極めて少ない二値のデータを時空間的に分散して移動させることで、中間データの移動量を大幅に削減。さらにシナプス演算にメモリ内計算を可能にするアナログ回路を導入することによって、重みパラメータの移動コストを低減するとともに、アナログ超並列計算により超低レイテンシ・超低消費エネルギーの実現が期待できます。
DNNには非常に様々な用途がありますが、SNNはさらに多くの問題に適用できる汎用性を秘めています。たとえば量子計算で高速化を目指すことが多い「最適化問題」が挙げられます。そのため、私は多様なニーズを包括できる「消費エネルギー」×「計算速度」×「汎用性」の積を探し出すことが重要であると考えています。
本研究テーマには学部生時代から取り組んでおり、様々なデバイスのシミュレータを作ってきましたが、このアナログ回路の設計には複雑な物理的知識が必要になるため、かなりの試行錯誤を重ねました。現在はアナログチップの試作品を評価し、大規模化やエミュレータへの採用の可否を検討しているところです。
国内のハードウェア研究者育成にも貢献したい
フェローシップに採択されたことで研究に集中できるようになり、同時に「インパクトのある仕事をしなければならない」という責任を感じるようになりました。
日本はハードウェア研究者の数が不足しています。近い将来、現在よりもAIが巨大化し、消費エネルギーを自力で低減できなければビジネスにならない時代が来るでしょう。AIの研究者が専用ハードウェアに興味を持ってくれることを、切に願っています。また、いつか自分が大学教員となり、研究だけではなく教育にも携わることができるよう、これからも精進してまいります。
(取材・撮影:ライティング株式会社 酒井若菜)