INTERVIEW

創発的先端人材育成フェローシップ採択者

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放射線画像 コンピュータービジョン コンピュータ支援診断 筋骨格系疾患

骨密度および筋肉量の測定機会を増やしたい

日本では高齢化が進むにつれて骨粗鬆症やサルコペニアの患者が増加しているにも関わらず、骨密度や筋肉量の検査を受ける人はごく一部です。これらの病気は自覚症状がないことに加えて、検査機器が高額であるため小規模な診療所やクリニックにあまり導入されていないことも、検査率が上がらない要因の一つとなっています。

一方で、X線検査装置はほとんどの医療機関に設置されており、骨や筋肉、その他さまざまな組織が写り込みます。そのため、X線画像から骨密度や筋肉量が測定可能になれば、検査率が上がり、早期発見・早期治療に繋がると考え、研究を始めました。

コンピュータの知識を学ぶ中で「もっと実社会に役に立つ研究がしたい」と思うようになり、もともと医学に興味があったことから、生体医用画像研究室に入った

骨と筋肉を細かく「分離」させる技術

本研究の手法は「画像診断」ではなく、まず画像データから各部位を「分離 」させます。たとえば下半身のX線画像から、大腿骨や骨盤など骨格の種類ごと、小殿筋や腸骨筋などの筋肉を部位ごとに抽出し、CT画像のように立体的に復元させた上で各々に対して定量分析を行い、骨密度や筋肉量を算出します。同じ患者さんの2次元のX線画像と3次元CT画像のペアをAIが学習することで、X線画像のみから、CT画像でしか得られなかった豊富な筋骨格情報を推論できるようにした点が、本研究の新しい点です。

さらに、通常のX線画像では確認が困難な部位であっても、分離させることでより多くの情報が得られるようになり、診断や治療における新たな判断材料になると期待できます。

X線検査は短時間で撮影可能であり、患者にとっても負担が軽いため、検査率の向上が期待できる

医療系はデータ収集が難しく、医師の協力が不可欠です。現在、本システムは10カ所の医療現場で試験的に使用されており、高い精度で各部位の骨密度を測定できるようになりました。筋肉量の計測も可能となり、検証段階に入っています。

小規模な医療機関で本システムの実装が進めば、身近なかかりつけ医院で精密検査を受けられるようになります。医療従事者も、たとえば膝関節の痛みで来院した患者にX線検査を行うことで、関節の状態だけではなく骨密度と筋肉量も把握でき、1回の検査で幅広い診断と早期アプローチが可能になります。

骨粗鬆症患者で「症状がない」状態で検査を受ける人は、わずか9%以下。実際に骨折して入院するまで認識できないケースが多い

他にはない特殊な手法が認められた喜び

本研究の「分離する」という特殊な手法は他に例がなく、医師からエラーの報告が入るたびにアップートを繰り返すなど、多くの不安がありました。だからこそ、このフェローシップに採択され、研究を認めていただいたことが何より嬉しく、大きな自信になりました。もちろん、日々の生活において経済的余裕が生まれたことも、とても感謝しています。

今後はこの手法をさらに応用し、さまざまな病気の原因となっている骨・筋肉以外の要素に対しても定量分析できるAIを開発し、それらを一つに統合することで、より幅広い疾患に対して総合的に診断できるシステムの開発を目指したいと思っています。

X線画像以外の生体画像も研究を進めて、医療現場に役立つシステムを開発していきたい

(取材・撮影:ライティング株式会社 酒井若菜)