瞳孔位置に基づき動的に画像を表示するマイクロレンズアレイHMDの試作とその評価

内嶺佑太


本研究では,マイクロレンズアレイを用いたヘッドマウントディスプレイ(HMD)において,発生する輝度ムラや意図しない光が見えてしまう効果(Image Effects)を除去するために,作成したプロトタイプ上で,瞳孔位置に基づく動的なイメージ表示について評価を行った.

頭部に装着するデバイス内のディスプレイによってコンテンツを表示するHMDは,没入感の高い視聴体験を実現することができる.特にVR-HMDでは,ディスプレイは目に近い位置に置かれ,広い視野角を確保することができる.このとき,目が焦点を合わせることができるように,内部に凸レンズが設置され,ディスプレイイメージの仮想イメージを投影する.一方で,このレンズとその焦点距離による制約によって,VR-HMDの設計自由度が制限され,厚く重たい筐体に繋がってしまう.

そのなかで,薄く軽量なVR-HMDを実現できるマイクロレンズアレイを用いたデバイスが提案されている.多数のレンズが分割されたディスプレイイメージを別々に投影し,それらを合成することでひとつの仮想イメージを投影する.焦点距離の小さいレンズを用いることで,軽量化,薄型化が可能となる.一方で,表示イメージを生成する際には,瞳孔位置をもとにした計算が必要となる.そのため,使用中の眼球回転に伴い瞳孔位置が変動したときには見えるイメージに変化が生じ,輝度ムラや意図しない光が見えてしまう.この問題をImage Effectsと呼び,本研究では,使用者の瞳孔位置の変動に応じて動的にイメージを表示する手法を,実機で評価することを目的とする.

評価にあたり,HMDのプロトタイプを作成し被験者実験を行った.まず,静的な状態で,瞳孔位置とディスプレイイメージを計算するためのパラメータに差が生じたときのImage Effectsの影響を評価した.被験者によるイメージへの評点結果を比較し,瞳孔位置に同期したパラメータを用いて生成したイメージを表示することが,Image Effectsの軽減に有効であることを確認した.次に,実際にアイトラッキングカメラを用いて瞳孔位置を計測し,動的なイメージ表示を行った.被験者へのインタビューを行ったところ,イメージ更新までのタイムラグに起因して瞬間的に発生するImage Effectsや,瞳孔計測のわずかな変動によって生じるImage Effectsのちらつきといった課題を発見した.