現在までドライバ状態推定に関する様々な研究が行われているが,多くの研究では何らかの特別な装置を装着するなどしてデータ収集を行っており,学習手法には教師あり学習を用いている.何らかの装置を装着しながら運転を行うことはドライバにとって心理的負担となりかねず,また教師あり学習単体での活用は多くのラベルデータを必要とする欠点がある.
そこで本研究では,既存車両の運転支援を想定し,ユーザのスマートデバイスから取得される程度の簡単なデータと教師無し学習による事前学習を活用してドライバ状態推定を行った.具体的には,データにはオープンデータセットの UAH-DriveSet を使用し,教師無し学習には Time-Contrastive Learning (TCL)と,TCL に新たに頑健性を加えた Robust Time-Contrastive Learning (RTCL)を使用した.
UAH-DriveSetはスマートフォンのGPS機能や加速度計などを用いて収集されたデータで,走行中に車内に設置して規定のアプリを起動することでデータを収集することができる.TCLは時系列データに対する非線形独立成分分析法であり,UAHのような走行データにも用いることができる.
TCL および RTCL のドライバ状態推定における事前学習としての性能を検討するにあたり,まず分類器として LDA を別に用意し,TCL と RTCL で事前学習したデータ (TCL-LDA, RTCL-LDA) と,一切事前学習をしないデータ (Naive-LDA) に対してそれぞれ分類を行う.そしてLDAに用いるラベルデータの数を徐々に増やした時のそれぞれの精度やF値を計算し比較することで,TCLやRTCLの事前学習としての性能を検討した.その結果,本データセットではTCLとRTCLに違いは見られなかったが,ラベルデータが極端に少ない時に,TCL-LDA,RTCL-LDAよりもNaive-LDAの方により高い汎化性能が見られることが確認された.