拡張現実感を用いた味覚操作インタフェースの開発と検証

中野萌士


食事は我々の生活を豊かにしてくれるが,様々な理由で,人々が望むものを食べることができない状況が発生する. このような場合,生活の質(QoL)は大幅に低下してしまう. 一方,クロスモーダル錯覚を用いた味覚操作によって,意図した食べ物が食べられたような感覚を提示することで,QoLの改善に繋がる可能性がある. 拡張現実感(AR)を用いた視覚変調の既存研究によって,知覚される食品の味が操作可能であることが知られているが,ユーザの食品種類の認識がどの程度操作可能かは知られていない. また,既存の視覚変調手法は,食品の変形に対して完全には対応できない.加えて,限られた種類の食品にしか対応していない. 本研究では,最初に,ARを用いた3次元(3D)モデルを用いた視覚変調によって,意図した食品3Dモデルを元の食品に重畳することで,元の食品の味を弱く,視覚変調によって提示した食品の味を強く感じさせることを明らかにし,食品の味や種類を操作可能であることを示す. 次に,動的でインタラクティブな視覚変調が可能なStarGANを用いた味覚操作インタフェースを提案し,視覚変調が知覚される味よりも食品種類の認知に大きく作用し,提示する映像の品質やユーザの食経験によって影響が増減することを示す. 最後に,視覚変調による味覚操作は全体的にある程度持続するが,その強さは各個人に応じて増減,または維持される傾向があることを明らかにする.また,国籍や性別によって,元の食品や視覚変調先の食品にあまり馴染みのないユーザは味覚操作による影響を強く感じる傾向を明らかにする.