剣道上達支援システムに向けたウェアラブルセンサによる打突動作検出/認識および熟練度評価手法に関する研究

鳥越 庸平(1811192)


近年,スポーツ分野において,競技者のトレーニングプロセスの強化やパフォーマンスの向上に情報通信技術(ICT)が用いられる機会が増加している. 特に,センシングデバイスの小型化・無線通信の低電力化により,ウェアラブルセンサを競技者の身体や競技用具に装着することで多様なデータを取得可能となった.ウェアラブルセンサの多くは,加速度センサとジャイロセンサを備えた慣性センサが内蔵されており,屋内外問わず競技者の運動動作を計測可能であることから,これまで注目されていなかった様々なスポーツにおけるパフォーマンス分析が大きく期待されている.

本発表では,日本の伝統的な武道の一つである剣道に着目し,初心者でも効果的な剣道稽古を単独で行える新しい支援システムの実現を目指して,慣性センサ内蔵ウェアラブルセンサを用いた打突動作の検出,種類認識,および熟練度評価手法を提案する.

本システムは,ウェアラブルセンサを競技者が身体や竹刀に装着した状態で素振りを行うことを想定している.システムが常時競技者をモニタリングすることにより,素振りによる打突動作が実行されると自動で検出され,技の種類の記録が行われる.また,練習後には打突動作の熟練度をシステムが評価することで,正しい打突動作へ補正することを目指す.

本システムで用いる提案手法の有効性を評価するため,(1)ユーザから取得されたデータからの打突動作区間検出,(2)打突動作の技の種類認識,(3)認識された打突動作に対しての熟練度評価に関する評価実験を行った.

(1)では,教師データと入力される時系列センサデータ間のDTW(Dynamic Time Warping)距離を計算し,打突動作区間を検出した.その結果,F値:95.0%の精度で打突動作を検出できることを確認した.

(2)では,教師付き機械学習手法を用いた推論モデルによって,5種類(正面,右面,左面,胴,小手)と面を統一した3種類(面,胴,小手)の打突動作を分類した.評価はユーザに依存するケース(PD)と依存しないケース(PI)の2通りで行い,PDでは,竹刀鍔の1箇所にウェアラブルセンサを装着した場合,5分類でF値:71.0%,3分類でF値:81.6%の認識精度となった.PIでは,右手首の1箇所にウェアラブルセンサを装着した場合,5分類でF値:94.0%,3分類でF値:97.7%の認識精度となった.

最後に,(3)打突動作の熟練度評価として,打突動作の加速度,ジャイロ,軌跡を指標として,熟練者のデータ(マスターデータ)に対するユーザから取得されるデータ(ユーザデータ)の評価値を計算した.その結果,指標によっては熟練度を評価できる可能性を示した.