デマンド応答型外出支援サービスにおける高齢者向け送迎要求収集システムの開発と評価

佐野友哉


近年,高齢化や過疎化により高齢者の移動手段が不足しており,移動手段の確保のために,ボランティア輸送やデマンドバスなどデマンド応答型交通(DRT: Demand-Responsive Transport)による移動支援に期待が高まっている.DRTでは,送迎要求を電話やスマートフォンに搭載されているアプリケーション(以下,アプリと呼ぶ)を介して受発信するが,電話での聞き取りには送迎管理に負担が大きく,スマートフォンアプリでは,スマートフォンを所有していない,あるいは,操作に不慣れな高齢者にとって利用が難しいという問題がある.さらにスマートフォンの利用は毎月の通信費がかかるため金銭的な負担が大きい.そこで本研究ではDRT型のボランティア輸送を対象に,高齢者から容易に送迎要求を収集し,送迎管理者に可視化できる高齢者向け送迎要求収集システムを提案する.提案システムでは,高齢者向けに新たに開発した要求送信デバイスを高齢者宅に設置し,LPWAによる通信を介して地域の送迎要求を収集し,地域のボランティア輸送を管理するスタッフに可視化を行う.高齢者でも容易に操作できるようにするため,スマートフォンアプリのようなタッチ入力のインターフェースではなく,物理ボタンによるキー入力インターフェースを備えた要求送信デバイスを設計・開発した.さらに,通信環境を構築するための契約や支払いをなくすため,LPWA(Low Power Wide Area)による通信機能を要求送信デバイスに実装した.また,送迎管理者がサーバにアクセスするだけで要求情報を一括して確認できるようにするため,要求情報を収集し自動でサーバへ送信するゲートウェイを開発した.高齢者に要求送信デバイスを操作してもらった結果,スマートフォンアプリによる入力インターフェースと比較して,高齢者にとって操作性が優れていることが分かった.またLPWAによる通信実験を行った結果,通信遮蔽物の影響によって直接通信が困難である要求送信デバイスとゲートウェイが,他の端末を経由するマルチホップ通信を行うことによって通信が可能となることを確認した.