EEGの2名同時計測による共感の計測

木下泰輝


共感は人間の社会的インタラクションにおいて重要な役割を持っている. これまでの多くの研究では,主観評価による共感の計測が行われてきた. しかし,これらの計測手法は信頼性が充分でないこと, 共感の社会的な望ましさによって結果が影響を受ける可能性があることが指摘されている. このため,共感に関連した脳活動を計測することによって共感を計測する,共感の脳科学的な計測が必要とされている. 共感に関連した脳活動には,ミラーニューロンシステム(MNS)がある. MNSは感情や痛みの体験と認識の両方によって活動するニューロンの集合である. そこで本研究では,顔の表情を利用した実験,直接対面で言語インタラクションを行う実験の二つを行い,感情に対するMNSの活動をEEGの二名同時計測によって計測した. 一つ目の実験では,顔表情の表出者と観察者から,同時にEEGを収録し,スペクトルパワー同士の相関係数を算出した. この結果,悲しみの表情を表出した条件と喜びの感情を表出した条件の双方において,有意な相関係数が見つかった. この相関はμ波において,頭頂部に見つかり,MNSの活動が確認された. また,二つ目の実験では,感情的な話の話し手と聞き手から同時にEEGを収録し,その相関係数を算出した. この結果,有意な相関係数は確認されなかった. 有意な相関係数が得られなかった理由として,体動と発話によるノイズの影響が挙げられる. 本研究により,ノイズが少ない環境においては,EEGの二名同時計測によって感情に対するMNSの活動を計測可能であることが示された.