BeatSync: 音楽を用いた歩行ペース誘導

大坪 敦


キーワード:歩行ペース誘導,音楽,音声情報処理,BPM,RhythmValue,スマートフォンアプリケーション

ウォーキングは,高血圧や糖尿病などの生活習慣病の予防・改善対策として,大いに注目されている. しかし,歩行の負荷が高いと継続は難しく,低すぎると効果が期待できない. 健康のためには,適切な道を適切な歩行ペースで歩行することが重要である. しかしながら,歩行ペースは「時速5.2kmで歩いてください」などと提示されても,その歩行ペースに合わせることは困難である. 効果的なウォーキングを実現するためには,歩行ペース支援システムが必要である.

そこで我々は,音楽のリズムに歩調を合わせることによって,自然にかつ正確な歩行ペース誘導を実現するスマートフォンアプリケーション BeatSync を提案する. BeatSyncは,ユーザが保持している楽曲から自由に歩行ペース誘導に使用する楽曲を選択できる. この時,楽曲の中にはリズムが速すぎ(遅すぎ)たり,不明確(特定のビートが他と比べて際立っていない)であったりと誘導に適さない楽曲も存在する. そこで本研究では,歩行ペース誘導に適した楽曲を選択するために, 楽曲に含まれるリズムの速さ及び明確さが歩行ペース誘導に与える大きな要因だと考え,この指標化を行っている.リズムの速さを表す指標としてBPM (beats per minute)を用い,リズムの明確さを表す指標としてRhythmValue (RV)を提案している.

提案した指標の有効性を検証するために,リズムの速さ,明確さの異なる計30曲(15曲を2セット)を用いて,被験者14人による歩行誘導実験を実施した.その結果,提案した指標により歩行ペース誘導に向き/不向きな曲を弁別でき,歩行ペース誘導に適した曲を選曲できることを確認した.

この結果を元に,BPMとRVを元にした楽曲の選定機能と,選定した楽曲による歩行ペース誘導機能からなる BeatSync を開発した. BeatSyncでは,歩行ペース誘導機能の他,使用したい楽曲を事前に指定するためのプレイリスト機能や,過去のウォーキングを振り返るための,履歴表示機能を実装した.

BeatSyncによる歩行ペース誘導の有用性を確認するために,選定された音楽を用いた歩行ペース誘導と,音声による歩行ペース誘導との比較実験を行った.結果として, 被験者15人中14人において,BeatSyncによる歩行ペース誘導により正確な誘導ができることを確認した.また,アンケート調査により,誘導のわかりやすさ,楽しさ,煩わしさのなさ,疲労感の感じにくさ,継続利用の意志,いずれも評価が高く,実用性の高さを確認した.