視覚障害者は店舗内の単独での買い物は難しく,基本的には介助者や店員の支援が必要である.実際に熊本県立盲学校の視覚障害者の教諭2名(弱視1名と全盲1名)にヒアリング調査を行った結果,弱視者は「行き慣れた小規模の店舗での単独での買い物は可能であるが誤購入が多い」,「初めて訪れる店舗では,単独での買い物は難しい」と回答した.全盲者は,「行き慣れた小規模の店舗でも単独での買い物は不可能であり,店員や介助者の助けが必要である」と回答した.また,両者から「可能ならば単独で気軽に買い物をしたい」という回答が得られた.
視覚障害者の買い物を支援する研究は存在するが,店舗での協力を要するために利用可能な場面が限られる.また,店舗の協力を要さないシステムでは,商品棚から目的の商品を取得することは可能でも,目的の商品が存在する棚までの誘導は実現されていない. そこで本研究では,弱視と全盲を含む視覚障害者の単独での買い物を支援するシステムの開発を目指す.提案システムは,3つの機能を有する.1つ目はユーザの現在地やどこにどのような商品が置かれているかを観測により記録した地図を作成することである.2つ目はユーザが未歩行の地点にどのような商品が置かれているか予測した地図を作成することである.3つ目は誘導する経路を算出し実際に誘導することである.
試作したシステムの有効性を検証するために,仮想空間上で弱視の見え方を再現し行った被験者実験では,試作システムの統計的な有意差は確認できなかった. しかし,人間の予測と同等かそれ以上の効率で目的の商品が存在する棚まで移動が可能であることが示唆された.