機械学習モデルを用いたγ-secretaseの基質切断機構の推定

植田 秀樹


アルツハイマー病は、脳内にamyloid-beta (Aβ)が蓄積することで引き起こされると考えられている。このAβを生成しているのがγ-secretaseであるため、γ-secretaseはアルツハイマー病予防の創薬対象にされてきた。しかし、未だに予防薬は開発されていない。γ-secretaseを対象とした薬の開発が上手く行っていない理由には、γ-secretaseの基質切断機構の理解が足りていないことが挙げられる。γ-secretaseの基質切断機構を明らかにすることは、新しい薬の開発に繋がる可能性があるため重要である。

本研究では、γ-secretaseの基質切断機構として切断活性部位のポケットサイズと、そのポケットが認識するアミノ酸の物性情報を推定した。18通りのポケットサイズ、10通りのアミノ酸物性情報、89通りの回帰手法を組み合わせてAmyloid beta precursor proteinの切断量データを学習することで、基質中のある配列がγ-secretaseによってどの程度切断されるのかを予測する回帰モデルを16,020個作成した。γ-secretaseには基質を連続的に切断するという性質があるため、作成した回帰モデルを使ってこの連続切断の動きを模した計算を行うことで、γ-secretaseによる切断点が知られている23基質に対して切断点の予測を行い、予測精度が最も大きかったモデル(87.0%)を選択した。このモデルのポケットサイズは7であり、ポケットが認識するとしたアミノ酸物性情報はタンパク質の二次構造に関係する物性情報であることが分かった。以上の結果から、γ-secretaseの切断活性部位は連続する7つのポケット構造からなっており、これらのポケットが、基質配列中のアミノ酸が持つ二次構造に関りのある物性情報を認識して配列の切断を決めている、というγ-secretaseの基質切断機構を推定した。