音楽演奏ゲーミフィケーションを取り入れたAR手指運動訓練

井上 直樹


手指はひとが生活する上で重要な役割を持つ.そして,その役割を発揮できなくなったときにリハビリは必要とされる.しかし,慣例的なリハビリは内容が単調なものが多く,長期にわたるリハビリの中で患者のモチベーションが低下してしまい,リハビリを諦めてしまうことが問題となっている.この問題に対して,音楽演奏を取り入れたトレーニングがいくつか提案されており,その効果が確認されている.音楽演奏は慣例的なリハビリと比べてより効果的であるだけでなく,患者の気分やQOLを高める効果も持っている.しかし,患者にとって演奏することは難しいため、演奏内容は単純な音階や簡単なメロディがだけに留まっている.長期間のリハビリの中で,これらを演奏し続けることはえ音楽演奏の楽しさを損ない,モチベーションの低下を引き起こすと考えられる.

そこで,本研究では,リハビリに音楽演奏とゲーミフィケーションを取り入れたシステムを開発した.リハビリの長期継続を実現するために,演奏する楽曲は患者の好きな曲を選ぶことができるようにした.また,楽器演奏を適切な難易度に落とし込むために,様々な要素から難易度を調節できるようにした.さらに,譜面の理解が遅れることで演奏にストレスがかからないように,デスクトップモニタを用いた表示方法だけでなく,ヘッドマウントディスプレイを用いたARによる表示方法も実装した.AR表示によって譜面を指の上に直接配置することで直感的に譜面を理解することができる.譜面と指の位置関係の違いによって演奏の内容に違いがあるのかを検証するために実験を行った.その結果、AR表示を用いることで演奏がより正確になることが分かった.正確に演奏できることで,トレーニングの楽しさや達成感、満足度が向上することが考えられ,モチベーションを持続させることが期待される.

一方,退院後の自宅でのリハビリにおいて,このシステムで使用していたデバイスは患者一人での取り扱いは難しく,このシステムを使用することは現実的ではない.そこで,患者一人でも取り扱いが可能な新たなトレーニングシステムを開発した.入力デバイスは持ち運びができるように軽量で,手に収まるサイズとなるように設計した.このシステムを専門家に体験していただき,いくつかコメントを頂いた.その結果、そのシステムは自宅での利用は十分可能であることが分かったが,デバイスの形状やユーザインターフェースなどにいくつか改善点が見つかった.