コネクトームハーモニクスを用いた安静時脳活動の電流源推定手法

伊藤 佑起


Magnetoencephalography (MEG)は, 高い時間分解能で脳活動を計測する非侵襲な技術である. ただし, 脳活動の電流源推定には, 脳周辺に配置されたセンサー数に対して電流源数が多いため不良設定問題となり, 数学的に一意に解が定まらず, MEGの計測データの他に何らかの制約条件を設定して推定する. しかし, 安静時脳活動は単なるアイドリング状態ではなく意識と重要な関係性があるとして盛んに研究が行われているにも拘らず, その安静時脳活動の電流源推定の手法は未だ確立していない. 安静時脳活動の機能的なネットワークと構造的なネットワークの間には強い相関関係があり, 機能的なネットワークは構造的なネットワークに制約を受けていると考えられている. スペクトルグラフ理論を用いた最近の研究では, 構造的なネットワークのグラフラプラシアンの固有モード (コネクトームハーモニクス基底)のいくつかが, 安静時での機能ネットワークの空間パターンに対応することが知られている. 固有値の小さいはコネクトームハーモニクス基底は, 低い周波数に対応して, 空間的には広範囲に広がるような皮質パターンになり, 固有値の大きなコネクトームハーモニクス基底は, 高い周波数に対応して 空間的に細かい皮質パターンになる. 先行研究では, Automated Anatomical Label (AAL)で分割された脳領域のうち88領域でのコネクトームハーモニクス基底を固有値の小さい順から12個ほど用いることでrsFCを再構成することができることが示されている.しかし, この機能ネットワークの空間パターンとコネクトームハーモニクス基底の関係性は, 少なくとも実データではfMRIによる研究に限られていた. そこで, 本研究では, まず,被験者20人のfMRIの安静時脳活動からrsFCから機能ネットワークを構成するのに必要なコネクトームハーモニクス基底を求め、固有値の小さい順の2-20番目が重要な基底であることを求めた. 次に, コネクトームハーモニクス基底2-20がMEGにでも安静時脳活動の電流源推定に用いるための基底として機能することを仮定し, コネクトームハーモニクス基底を用いたKalman Filterによる新たな安静時の電流源推定手法を開発した. 我々の開発した電流源推定モデルは, 構造的なネットワークによる時間遅れを取り入れた蔵本モデルシミュレーションで検証し, MNE, LCMV-Beam Former, dSPMといった他のモデルよりも時間相関や空間相関、推定FCと真のFCの相関において十分優位な性能を示した. また, 安静時脳活動の実データにおいてもMNE, LCMV-Beam Former, dSPMといった他のモデルより本提案手法の方がシータ波(4-8 Hz)-高ガンマ波(48-70 Hz)の各周波数帯域から取得した機能的ネットワークの空間パターンを既存の推定手法よりも高い再現性を有していることを示した. これにより, 本研究から, MEGにおいてもコネクトームハーモニクスは推定に重要な基底として機能することが分かり, MEGの安静時脳活動の電流源推定手法として用いることができることを示した.