環境発電素子の発電量に基づくウェアラブル場所推定システムの開発

梅津 吉雅 (1751030)


近年、オフィスワーカーの健康維持を目的として、ウェアラブルデバイスによるライフログが注目を集めている。 ライフログとは、人間の生活中の行動を、長期間に渡りデジタルデータとして記録することである。 記録されるデータは、運動量、移動経路、読書量など様々であるが、中でも、ユーザの訪れた「場所」の履歴は、生活中の行動の履歴と密接に関係する。 そのため、様々なセンサデバイスを用いた人の場所認識技術が、ライフログサービスを支える重要な技術の一つとなる。 現在、屋外における場所認識には、GPS (Global Position System) で取得可能な高精度の位置情報が応用されることが多く、スマートフォンアプリなどで手軽に高品質のサービスを利用可能である。 一方で、屋内における場所認識にはGPSを用いることができないため、代わりにWiFi、Bluetooth等の近距離無線通信の強度から場所を推定する手法が一般的である。 しかし、それらはデバイスの通信機能を常時起動しておく必要があり、長期の継続的な場所推定に際し、消費電力が大きいという問題がある。 また、それらは適用環境にインフラとして複数の通信機器の設置を要求するものが多いため、その導入と、保守管理の必要性が生じる。 そこで、本研究では、単独のデバイスのみで屋内場所を長期的に記録できるシステムを実現するため、複数の環境発電素子の発電量をセンサ値とみなし、機械学習により場所を推定する手法を提案する。 太陽電池や圧電素子に代表される環境発電素子の利用は、自然現象から電力を収集するための有益な方法として注目されている。 しかし、その発電量が素子の周辺環境の状態に大きく依存するという特性をもつため、デバイスの安定した電力源としての利用は未だ現実的ではない。 本研究では、その不安定な特性を逆手に取り、環境発電素子の発電量の変化量からユーザの存在する場所を推定する可能ではないかと考えた。 まず、代表的な環境発電素子の発電特性を調査し、それぞれの素子の場所認識への利用可能性を評価した。 次に、推定精度の評価のために、プロトタイプデバイスを構築し、大学構内にてデータ収集および評価実験を行った。 想定される利用シナリオに基づいて、推定場所を9種類に定めて、場所認識精度を評価した結果、平均F値88.5%で推定できることを確認した。 この結果は、3軸加速度計と照度計の値を用いた従来の場所認識の精度よりも優れており、本手法が、従来手法による場所推定手法より有効であることを明らかにした。 さらに、環境発電素子のすべての組み合わせについて、精度分析を行った結果、2種類の太陽電池だけでも、86.2%の精度で場所認識が可能なことを確認した。 この結果から、デバイスのさらなる小型化について可能性を示した。