狭視野シースルーHMDのための視野外オブジェクトへの視線誘導手法に関する研究

渡邊 貴弘 (1751131)


 近年AR を用いたアプリケーションが多く見られるようになってきた.それに伴 い,AR ヘッドマウントディスプレイも盛んに開発されており,今後普及していく と考えられる.AR ヘッドマウントディスプレイの主な用途として作業支援などが挙げられ, 注意すべき物体や領域の提示が行われている.しかし,光学シースルー方式のAR ヘッドマウントディスプレイで は視野角が30-50 度程度と狭く,提示すべきオブジェクトが表示領域外となるこ とが多く見受けられる.この狭視野角の問題は技術的に解決が難しいとされており, デバイス普及後もしばらく継続すると予想される.

 本研究では,視野角の狭いAR ヘッドマウントディスプレイを対象とし て,ユーザの視点を視野外の目標地点に効果的に誘導する提示手法について 比較と検討を行った.

 はじめにARヘッドマウントディスプレイであるHoloLensを用いたバドミントンの サポートアプリケーションを作成した.本アプリケーションでは,飛来するシャトルコックの軌道をカルマンフィルタを用いて 予測して重畳表示を行う機能,及び適切な返球用の打点位置を重回帰分析によるモデルから予測して提示する機能を実装した. 本アプリケーションを通して,視野角の問題を認識するに至った.

 次に,視点誘導に効果的な提示手法の検証を行った. 目標地点方向を表す提示を,視界中央部に表示する場合と端部に表示する場合, 距離や詳細な方向を示す情報の有無によって分類し,2D Arrow Center,3D Arrow,2D Arrow End,Halo という4 種類の提示手法を選定した. 先に述べたHoloLensによるシステムは,デバイスの遅延やトラッキング誤差が支配的となるため, 視点誘導提示効果の検証は,VR環境で擬似的にARヘッドマウントディスプレイを再現することで行った.

 実験では,提示による視点誘導の迅速さを検証するための視点誘導タスクと,提示 から目標地点を予測する精度を検証するためのポインティングタスクを行った.視 点誘導タスクの結果,画面端かつ距離の情報を含んだ提示が効 果的であり,認識負荷や周辺視野領域での人間の知覚能力が影響していると結論を得た. また,視界中央部での表示では,正確な方向を示す情報が有効であ ることも示された.ポインティングタスクでは,提示ごとの差を検証することは出 来なかったが,周囲の環境認識を阻害せずに,迅速な視点誘導を促すことが可能で あると示唆された.