酸化物半導体を用いたセルラニューラルネットワークにおける特性ばらつきの影響の評価

山根 弘樹 (1751119)


人工知能は様々な分野で利用されており,今後も更なる発展と共に人々の生活を豊かにすることが期待されている. 人工知能を実現するための代表的な技術であるニューラルネットワークは,生体の脳の神経回路を模倣した数理的モデルである. その利点は,自己組織化・自己学習能力・並列分散コンピューティング・フォールトトレランスなどがある. しかしながら,従来のニューラルネットワークは,高性能のハードウェア上で実行される複雑なソフトウェアであるため, マシンサイズが非常に大きく,ハードウェア動作自体だけでなくそれを冷却するためのエアコンなどにとっても消費電力は信じられないほど 多くなってしまう. さらに,ただひとつの物理デバイスが故障した場合も全体のプロセスが停止する従来のノイマン型コンピュータで実行されるため,並列分散コンピューティングやフォー ルトトレランスなどの前述の利点を得ることができない. 高性能化・大規模集積化・低消費電力化などが可能となり,集積回路での作製に適した構造をもつニューラルネットワークを ハードウェアで実現するニューロモルフィックシステムを作製することで,これらの問題を解決できる. 特に,低温での作製が可能であり,3次元化による超大規集積化も可能となる酸化物半導体シナプスを用いることで,より大規模なニューラルネットワークを構成可能となる. 本研究では,酸化物半導体を作製した時に発生する特性ばらつきがニューラルネットワークに与える影響をシミュレーションにより評価した. この結果,酸化物半導体の初期抵抗値の標準偏差が平均の32%を超えるとニューラルネットワークの精度が落ち始め, また,劣化速度のばらつきの標準偏差は平均の12%を超えると精度が落ち始めることが分かった. さらに,ハードウェアで実装するニューラルネットワークに適した活性化関数はReLU関数であることを明らかにした.