本研究では,輪郭補正が顔交換映像の自己認識に与える影響について検証を行った.本発表では,はじめに研究に至った背景および予備実験の結果や関連研究について説明し,その後,下記に示す実験の内容と仮説検証の結果と考察について詳細に話す.
顔交換技術は,スポーツ科学の専門家により,スポーツの現場で行われるイメージトレーニングへイメージの鮮明性を高める目的での利用が検討されている[1].具体的には,イメージトレーニング中に観察される動作映像に顔交換を施すことにより,(顔交換が施されていない)他者映像よりもイメージの鮮明性が高まることを期待している.これを確かめるために渡邊ら[1]によって行われたイメージトレーニングにおける顔交換技術の有用性の検証実験の結果から,大脳の活動と顔交換映像の自己認識度合いの関連が示唆された.したがって,イメージトレーニングにおいて顔交換映像を利用し効果を得るためには,より自己認識度合いの高い顔交換映像とそれを生成する技術が必要となる.しかし,既存の顔交換技術に関する研究は交換結果が自然であるかを問う主観評価が主であり,交換結果の自己認識を問う主観評価は明らかになっていない.
そこで,本研究では予備実験の結果なども踏まえ,顔の観察方向や交換対象の人物の違いも考慮し,顔交換映像の自己認識度合いを検証する被験者実験を行った.具体的には,以下の仮説を与え,この仮説検証を行うための実験を実施した.
実験では,被験者に自身の顔に置き換えた顔交換映像を観察してもらい,自身だと感じた映像やどの程度自身だと感じたかをVisual Analogue Scale (VAS) を用いて回答する主観的な評価を行ってもらった.一対比較および点数付けによる評価結果を用い,t検定およびウィルコクソンの符号付順位検定の両側検定から仮説1の検証を行ったところ,仮説1が支持され,輪郭補正が顔交換映像の自己認識度合い向上に寄与することを確認した.さらに,映像を顔の観察方向および交換対象の人物ごとに分類した結果を用いて仮説2および仮説3の検証を行った結果より,輪郭の補正量が大きいほど自己認識度合いの向上度合いが大きいことが確認された.
[1] 渡邊裕宣,松村遥,武富貴史, Alexander Plopski, ,権田智也,加藤博一,吉武康栄:動作観察による運動学習を促進させる顔変換システムの有用性の検証,第19回 計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会(SI2018),pp. 950951 (2018).