題目:拡張現実感を用いた輝度調節による視線誘導

名前:藤原 徹平 (1751104)


 人間が周囲の環境を把握する上で,視覚による情報は非常に重要である.その中でも特に重要な情報を効率的に認識するために,人間には周囲に比べて特徴がある場所を無意識に知覚する特性が存在する.この特性を利用し,ある特定の対象物を周囲に比べて特徴的にすることにより,意図的に注視を誘導する事が可能である.このような技術は高速に対象物への認知を促すべきタスクへの活用が期待でき,自動車や航空機の運転,習熟が必要な作業のサポートに効果が期待できる.また,既存研究より,コントラストを人工的に作り出すことで特定の物体の発見を促す事が示されている.しかし,この人工的なコントラストをユーザの視界に直接作り出すような技術については具体的な検証が行われていない.

 そこで本研究では,ユーザの視覚機能や認知機能をサポートし視界内の対象物のコントラストを調節する技術の確立と検証を行うために,ユーザの視界に直接人工的なコントラストを与えるようなシステムの開発を行う.透過型液晶ディスプレイ及び凸レンズ群を用いた光学系を作成し,対象となる領域以外の明るさを抑制する事により対象となる領域を相対的に明るくする.これにより,ユーザが本システム越しに外界を観察する際に特定の領域に人工的なコントラストを与えることが実現できる.

 本研究では試作システムを実装し,視野角や視界の鮮明さ等のシステム挙動について検証した.さらに,本研究ではユーザに物体の発見を促すために必要なコントラストの強さを予備実験にて実証し,その結果をもとに透過型液晶ディスプレイの適切な画素値を導出した.

 以上の試作システムの有効性を検証するために,ユーザに視界内の物体をなるべく早く発見するタスクを課す実験を行った.その結果,システムが特定領域を強調している場合に,物体の発見時間がおよそ27%短縮され,統計的にも有意であることを確認した.