食事に求める価値の一つに「満腹感」がある.しかし,日々の食事で満腹感を追求し続けると,慢性的な過食状態から肥満等の健康的問題に発展することが容易に想像される. 胃拡張からくる過食状態の是正は非常に難しく,減量外科治療等は効果が大きい代わりにリスクも大きい.そのため,減量外科治療に代わる食事量制御をサポートするシステムが必要となる.
本研究では,減量外科治療のようなリスクを可能な限り小さくし,食事量の適正化に重要な日常利用が可能な過食抑制システムを提案する. 満腹感を形成する因子として,腹部の膨張や重量,腹部皮膚の引っ張り等の内臓の重量や容量に関する感覚が挙げられるため,上記3つの身体感覚を, 視覚及び触覚を用いてユーザに対して誇張提示することで,過食行為を抑制可能ではないかと考えた.そして,先の3つを提示するものとして,衣服と椅子の一体型デバイスとして試作し, 提案システムに基づいた試作デバイスの食事量減少効果の検証を行った.被験者にはデバイスを着用してもらい,腹部の膨張・腹部の重量・腹部皮膚の引っ張りの3つの身体感覚を拡張提示しながら食事を行ってもらう作動条件と, 身体情報の提示無しに食事を行ってもらう非作動条件の2条件で食事を行ってもらい,その2条件間の食事量の変化や,デバイスの効果に対する主観評価を行った. 結果として,非作動条件に対して作動条件では,平均7.38%の食事量減少を確認した.また,提案システムに基づいた試作デバイス使用と食事量の減少の間に統計的有意差を確認できた.