スマートホームにおける宅内情報を用いた時間内次行動生起の予測手法とその評価

佐々木渉 (1751050)


近年,宅内での位置情報を利用したサービスは多く存在している.宅内家電が人間の位置を認識することで,照明のオンオフやエアコンの自動風向調整などのサービスが実現可能となった.我々は,宅内における行動予測を実現し,行動の背後の欲求を満たすような家電制御が事前にできれば,日常生活をより豊かにできると考える.例えば,朝の起床に合わせてコーヒーを準備したり,お風呂に入る前に自動で湯張りを行なったりするサービスである.宅内において,居住者が次に行う行動を予測することは,より良い宅内サービスを実現するために有益である.例えば,次に生起する行動が入浴だと予測できれば,浴槽への自動湯はりサービスが期待できる.宅内行動予測のためには,次行動の種類と次行動生起までの時間を予測する必要がある.しかし,既存研究では,次行動生起までの時間を回帰問題として予測した結果,各行動において1時間以上の平均絶対誤差が発生しており,家電の先回り制御などの実サービスに適用しづらいという問題があった.そこで,本論文では,行動ごとに次行動生起までの時間を複数の時間範囲に分類して予測する手法を提案する.本手法において,分類する時間範囲の設定が重要となる.まず,行動中,10分以内,10〜30分,30〜60分,1〜2時間,2〜3時間,3時間以上(もしくは生起しない)の計7つに分類するモデルを考えた.しかし,分類するクラス数が多い場合,予測精度が実用的ではないことがわかった.そのため,行動中,もしくは10分,30分または1時間以内に生起するか否かという分類を行い問題を単純化した.評価実験のために,超音波位置センサ,Bluetoothワットチェッカー,クランプ式CTセンサ,人感センサ,宅内家電を用いて5人の被験者による合計20日間の生活行動データ(10秒毎の行動ラベルの真値を含む)を収集した.収集データは,10秒おきに次行動生起までの時間範囲ラベルへの変換と特徴量抽出を行った.LSTMによって学習モデルを作成した結果,18種類の対象行動のうち,平均予測再現率が33%以上を達成できたものが30分以内では3種類(37.0%〜53.8%),1時間以内では4種類(37.0%〜56.4%)であった.さらに,提案手法の精度改善の可能性を調べるため,回帰による行動予測モデルを構築し,回帰を用いている既存手法と比較した.比較のために,超音波位置センサ,人感センサ,ドアセンサ,宅内家電情報(分電盤による電気系統の消費電力を含む)を用いて新たに20日間のデータ(10秒ごとの行動ラベルの真値含む)を収集し,10秒おきに次行動生起までの時間への変換と特徴量抽出を行った.LSTMにより回帰モデルを作成した結果,提案手法では平均絶対誤差15,000[s]程度で予測できることがわかり,既存研究の8,402[s]と比べて精度改善の余地があることが分かった.