多様な遅延状況における片方向遅延情報とout-of-orderを考慮したMPTCPスケジューラの実装と評価

木下 裕太 (1751037)


複数のインタフェースを同時に使用し,帯域幅の集約や,耐障害性を向上させる技術としてMultipathTCP(MPTCP)が標準化されている.現在実装されているMPTCPは,インタフェース間のネットワーク遅延差が大きい環境において,通常のTCPに対しスループットが低下する問題がある.これは,インタフェース間のネットワーク遅延差が大きい場合に,送信されたパケットが受信者側バッファに順序外で到着するout-of-orderという現象が発生するためである.また,インタフェース間の遅延差だけでなく,単一のインタフェース内でも上下方向に遅延差が生じている.例えば,LTEなどのCellularインタフェースでは上りと下りで帯域幅が異なり遅延差が発生しやすい.既存研究では各パスのRTTに基づいたスケジューリングをしているため,上下方向の遅延差のある環境において受信者側でout-of-orderが発生する.また,送信バッファ内の末尾パケットのみを考慮したスケジューリングをしているため,末尾以外の途中パケットの送信時にout-of-orderが発生する.そこで本研究ではTCPタイムオプションから片方向遅延情報を導出し,RTTに代わり片方向遅延情報を使用したスケジューリングを行い,上下方向の遅延差がある環境に対応する.また,末尾パケット以外のパケットのout-of-orderも考慮するために,各パスのパラメータを用いてパケットを先送りするスケジューラを提案する.実験の結果,大容量データに対し,最大8.44\%のスループットの改善が見られた.また,上下遅延差がある環境で少容量データのダウンロード時間を短縮することができた.