現実の信念を保つVR体験のための全方位映像を用いた現実-VR間の遷移手法

桶田 真吾 (1751024)


既存のVR (Virtual Reality)システムでは、ユーザは通常、体験を現実として知覚・認識しない。例えば、災害シミュレータのユーザは提示された災害が現実のものでないことを意識的または無意識的に知っており、これによりVR体験における学習効果は本質的に制限されている。 VR空間におけるプレゼンスを高めるため、CG (Computer Graphics) で構成された現実空間の代替環境から目的のVR空間へと遷移する研究が存在するが、この手法は制作コストが高く、ユーザの現実にいるという感覚を保つことができない。 VR体験をより信憑性のある体験にするために、本論文ではVR環境における「いま・ここにある現実にいるという信念:いまここ感」を低コストで保つ新たな現実-VR間の遷移インタフェースのフレームワークを提案する。 本フレームワークでは現実-仮想化現実空間-VR空間の2段階の遷移を行い、仮想化現実空間では現実空間とほぼ同じ視界を提供する全方位映像、仮想化現実空間とVR空間の間では滑らかに遷移する映像効果を用いることにより、ユーザにいまここ感を維持させることを目指す。試作システムとして、小人のような現実空間での低い視点を提供する小人アプリケーション、まるで自分が別の場所に存在しているかのような感覚をもたらす旅行アプリケーションを制作し、被験者実験により各遷移段階でどれほどのいまここ感が保たれているか調査する。結果としてユーザは全方位映像に非常に高いレベルのいまここ感を感じ、遷移中では遷移効果なし・既存手法と比較して、より高い状態でいまここ感が保たれることが確認できた。