高効率かつロバストな多入力アナログ演算器の設計と評価

上竹 規之


IoTや機械学習アルゴリズムが飛躍的発展を遂げ、組み込み機器の実アプリケーションとして実社会に使われるようになった。 それに伴い組み込み機器に要求される演算性能も高くなっている。一方で、デナード・スケーリング則の恩恵が減りつつある今、集積度による性能向上が難しく、今までにはない形の計算方式の模索を強いられている。 この課題に対して、本研究では、アナログ回路を用いた近似計算による改善を試みる。近似計算とは、厳密解の代わりに近似解を算出することで、演算効率を向上させる手法である。 アナログ回路は、デジタル演算器と比べて、クロックレスのため演算速度が速く、小規模実装できるが、温度や製造ばらつきなどのノイズによる性能劣化やノンプログラマブルである点が課題である。 しかし、我々の提案する演算器は回帰アルゴリズムSVRをアナログ回路に実装することにより、プログラマブルなアナログ演算器である。 近似対象の関数は、SVRの教師あり学習によって決定される座標SVを用いたカーネル関数の総和で表現される。 本研究では、カーネル関数にガウシアン関数を用いた近似を行っており、動的に調整可能な近似ガウシアン関数を出力するカーネル回路を実装することで、アナログ回路によるSVRの実装を可能とする。 また、このカーネル回路の出力が電流であるため、キルヒホッフの法則によってSVRの総和を算出する。 この演算器の回路規模はSVの数に依存しており、複数回に渡る学習と入力サンプルの厳選を行い、小規模実装かつ高精度なアナログ演算器の実装を試みる。 本稿は、SVRを使うことができるオープンライブラリLIBSVMと回路シミュレーションツールであるHSPICEを用いたアナログ演算器の設計及び評価を行う。 ノイズによる性能劣化を考慮しない1,2,9変数の関数近似例として、 f(x)=x^2,f(x_1,x_2) = sqrt{x_1^2 + x_2^2}, f(X) = sqrt{x_1^2 + x_2^2 + ... +x_8^2 + x_9^2}を対象とした近似計算を行い、それぞれの誤差が2.64%, 4,20%, 10.85%となり、演算時間は330n秒であった。 また、この演算に用いられたSVの数はそれぞれ$10$個、20個、90個となり、回路規模は1,2入力計算がトランジスタ600個、9入力計算が9000個となった。 しかし、この回路の温度と製造ばらつきを考慮した場合、カーネル回路の誤差が大きかったため、MOSFETのサイズ調整による改善を試みた。 f(x)=x^2, f(x_1,x_2) = sqrt{x_1^2 + x_2^2}$の近似計算による誤差がそれぞれ7.52%, 5.74%となり、ノイズの影響の低減に成功した。 また、2入力近似計算の最適化を行い、SVが10から25個の場合が誤差も許容範囲かつ小規模実装可能でであることを確認した。