指の制御訓練における拡張現実感の効果に関する研究

森 諒介 (1651112)


近年の高齢化社会に伴い,高齢者への社会復帰や自立を促進する活動が世界的に広がっている.
しかしながら,そこには大きな大きな障害があります.それは老化により多くの高齢者が身体的な制限を受けていることである.
特に,食事をはじめとした生きる上で必要な行動を一人で行えないことは他人への依存を増大させることになり大きな問題となる.
この問題に深くかかわるのが,上肢の制御であり中でも指の制御は自立する上で重要な部位である.

Pressing Evaluation Training System(PETS)はこのような状況下の指の制御を回復させることを目的としたデバイスを含めたシステムである
実装されているトレーニングには,

(1)一定時間の間,指定された指から力を掛け続ける

(2)一定時間ごとに指に掛ける力を変化させること

(3)指示に従い単独または複数の指に同時に力を掛ける

この3つのタスクの内一つ,もしくは複数を同時に行うことからなる.
タスクを実施する際には,ディスプレイ上に表示されているUIを確認しながら行う必要がある. これにより,ユーザはディスプレイ上を常に監視しながらタスクを行う必要がある.

このことはユーザが基本的にディスプレイに焦点を合わせ続ける必要があることを示唆し,実際のタスクを行う手に集中できなくなる恐れがある.

拡張現実感(AR)は,現実世界を仮想空間に取り込むことで仮想空間と現実世界の動作を同期させる.
したがって一つのデバイスを登録すれば,取得した動きに合わせて仮想空間上でも同様の動きをすることとなる.
AR利用すれば,ディスプレイの代わりにPETSのデバイス上,もしくは関連する箇所に仮想物体を関連付け,固定することが可能となる.
ここに仮想ディスプレイを配置することができれば,ユーザーによるデバイスの操作とトレーニングの監視を同時にすることが可能となり,ユーザへ精神的な負荷を減らすことに繋がると考える.

この研究では,この精神的負荷の軽減がユーザのパフォーマンスを向上させることに繋がるかを調査する.
ただし現在,当研究室にはPETS本体がないため,小分けした状態で同様のタスクを行えるハプティックデバイスを中心にARを用いることが効果的であるかを確かめるためのシステムを作成した.
また,ARコンテンツをユーザへ提示するために,ビデオシースルー型ヘッドマウントディスプレイ(VST-HMD)を使用することとした.
これによりユーザーは手が空いた状態で作業に集中することが可能となる.

ARシステムの効果を評価するために6名の参加者を募集し,ARを含む数種類の表示機器を比較することで実験を行った.
得られた結果から,ディスプレイのような古典的なシステムとARとの間には差がないことが示されている.

私たちは,この発見と差が生じない理由にを議論することとしている.