欺瞞検知における統計的学習手法の有効性に関する研究

細見直希 (1651094)


欺瞞はコミュニケーションにおいて利益獲得や不利益回避のためにしばしば用いられるが,受け手にとっては不当に不利益を被る恐れがあるため,これを検知することが望まれる.しかし,欺瞞/非欺瞞の発話における特徴の差は僅かであり,加えて,人間は発話の真偽に関わらず発話を真実とみなす傾向(真実バイアス)などのバイアスを有しているため,欺瞞を正確に検知することは容易ではない.実際に,人間による欺瞞検知の正解率はチャンスレベル程度であることが複数の研究で示唆されている. このような問題に対して,人間のようなバイアスを持たず,また人間にとって把握することが難しい特徴を用いることができる計算機を利用することで,高精度な欺瞞検知を実現できる可能性がある.特に,統計的学習手法(機械学習)の一種である教師あり学習に対して,大量の欺瞞/非欺瞞の発話の事例を学習させることで,人間より高精度な欺瞞検知を行える識別器を構築可能なことが先行研究で示唆されている. 本研究では,人間同士の欺瞞を含む音声対話を対象に,人間と統計的学習手法による識別器のそれぞれで欺瞞検知実験を実施した.その結果,本課題においても人間が真実バイアスを示すこと,母語やモーダルに関わらず検知能力がチャンスレベル程度であることを確認した.一方で,このような人間にとって困難な課題に対して,音声に含まれる感情関連の特徴や文の分散表現を組み合わせて学習させた識別器を用いることで,人間及びチャンスレベルと比較して有意に高精度な欺瞞検知が実現可能であることを確認した.