観光客にとって満足度の高い観光の実現には,観光客の嗜好(プロファイル)といった静的情報に加えて, 目的地及び移動経路の現在の混雑度といった動的情報を考慮した観光コンテンツをタイムリーに提供することが望まれる. しかし,こうした情報の収集・更新/整理・編纂には,観光地側・観光客の双方に労力・時間・金銭の面で負担がかかるという問題点がある. 観光スポット推薦に関する既存研究では推薦対象としている観光エリアが広いため,推薦対象となる観光スポットは有名でありきたりなものばかりになる可能性がある. また,推薦を行うためには観光地側・観光客のデータを大量に集める必要がある.さらに,既存の観光プランや既存研究によって生成される観光プランは, 観光スポットの種別や営業時間など静的情報のみを扱っているため,実際に観光を行う際の天気や混雑状況,期間限定のイベントといった動的情報が反映されていない. そのため,観光客は自ら膨大な観光情報を取捨選択し予定を立て,現地の状況に合わせて観光プランを修正しなければならないため,観光中の使用には問題がある.
本研究では,良質な観光プランを低コストで作成し,観光を行う現地でタイムリーに提供するシステムを提案する. 低コストでの良質な観光プランの作成を実現すべく,スマートフォン上で動作し,実時間観光プラン提供に向けた観光情報収集・キュレーションシステムの設計/開発を行った. 提案システムでは,次の4つの課題を達成する機構の実現を目指している. 1.観光客・観光スポットについての情報収集にかかるコストを削減 2.観光プランの作成・利用にかかる観光客の負担を軽減 3.天候や混雑度,イベントなど観光地の現在の状況(動的情報)の考慮 4.観光客の満足度を高くするような観光プランの作成
本研究では,研究目的で述べた課題を達成するための2つの機構(A)観光情報収集機構,(B)観光スポットの推薦順位決定機構 を備えたシステムを設計する. そして,基本性能の評価に向けた実証実験を作成したアプリケーションを用いて実際の観光地および仮想環境上にて行う. 提案手法では,AHPとコンジョイント分析を組合せることによって,観光客に負担をかけず高い精度で観光客の嗜好を取得する. また,各観光スポットの持つ自然度合い,日本らしさといった特性と観光客の嗜好をそれぞれ特徴ベクトルで表し, それらのcos類似度を観光客の嗜好を考慮した各スポットの推薦度をとする. この推薦度を混雑度を考慮して高い順に並び替えることで,対象観光客に対する観光スポット推薦順位を決定し,観光スポット推薦を実現する.
提案システムの有効性を評価するため行った実験では, 1.観光前に詳細な計画を立てない観光客に対して,オンサイト観光スポット推薦は有効であること, 2.参加型センシングによる観光情報の収集は,既存手法より少ない労力で観光情報の質と量が既存手法と同等以上に確保できること, 3.提案手法によって嗜好取得における被験者の負担を大幅に減少させながら被験者の嗜好を観光スポット推薦に反映させられること, 4.一般的に多く利用される観光のモデルコースと比較してより高い満足度を得ることが出来る,という4つの知見が得られた.