体節形成時の確率性による遺伝子発現の同調の促進

野添 光 (1651086)


脊椎動物の発生過程では, 頭の方から数十個の細胞が集団化し, 体節と呼ばれる構造が繰り返し形成される. これを体節形成と呼ぶ. 体節は身体の空間的なパターンを規定するため, その原理解明は生物の体作りを理解する上で重要である. マウスでは, Notchシグナルによって転写抑制因子Hairy and Enhancer of Split families (以下 Hes7)が未分節未分節中胚葉の尻尾側の細胞集団で同調的に発現し, 同調した細胞が同じ体節を形成する. このHes7の早い同調回復は生体の発達における頑強性に寄与しているが, その数理的原理は未解明である. 本研究では, 従来のHes7発現の決定論モデルのような強い細胞間相互作用は仮定せず, Hes7の翻訳開始・終了を確率過程としてモデル化し, 弱い細胞間相互作用を導入した. 結果として, 全細胞が完全に同調発現することはないこと, しかしHes7発現量の細胞集団における中央値は周期性を持つこと, 外乱によるバラついた発現状態からの速い同調回復が可能であることを確認した.